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妖怪と現代人:2(小松教授)

2008年4月12日

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 社会が不安を抱えると、お化けや怪談が登場する。

 格差拡大の今も同じです。

    *

 バブル期、大ヒットしたトトロは、金でない価値を描いていました。

 ●おさらい

 日本人が古くから生み出してきた数々の妖怪。その「正体」を探ると、人や社会が抱える不安や恐怖、嘆きなどが浮き彫りになる、と小松教授は言う。現代は妖怪を扱った映画やアニメなどが大変な人気だ。なぜいま、妖怪に人々の関心が集まるのか。

 日本の歴史を振り返ると、妖怪が盛んに生まれた時代があります。

 例えば、平安末期から鎌倉初期にかけて。「今昔物語集」「宇治拾遺物語」などの多くの作品に妖怪や不思議な現象が登場します。権力者が貴族から武士へと変わる時代でした。

 二つの朝廷が争った南北朝時代には、酒呑童子(しゅてんどうじ)が描かれた「大江山絵詞(えことば)」などの絵巻物が成立したとされています。道具のお化けたちが出てくる「百鬼夜行絵巻」は戦国時代を控えた室町末期。江戸末期から明治初期には、「東海道四谷怪談」などの怪談が人気を博し、「百鬼夜行絵巻」の複製が出回りました。

 妖怪が人気を博した時代=キーワード=は、社会が大きく動いた、あるいは逆に世の中が行き詰まった時期と重なっています。

 そして現代。高度経済成長期の後、水木しげるさんの「妖怪事典」(81年)が売れるなど静かな妖怪ブームが起こりました。90年代半ばから大きなうねりとなって今に続いています。

 私が学生だった高度成長期は、妖怪はさっぱり人気がありませんでした。「妖怪を研究している」と言うと必ず変な目で見られました。日本が経済発展するうえで「妖怪=迷信=現代人に不要なもの」と受け止められていたからでしょう。

 それがどうして再び妖怪に関心が集まるようになったのか。

    ◇

 高度経済成長を経て私たちは物に恵まれた便利な生活を手に入れました。バブル期には物質的な豊かさが頂点に達しました。しかし、「お金や物をたくさん持っていることが幸せなことだ」「若くて健康でないと人生を楽しめない」といった、やせ細った一面的な考え方も広がりました。

 今は「勝ち組」「負け組」と格差を助長させる風潮もあります。政治や経済、健康、安全保障、地球環境などへの不安もあります。日本や世界の明るい未来をイメージすることが難しくなりました。こうした雰囲気に居心地の悪さや息苦しさを感じている人々は少なくないはずです。

    ◇

 バブル景気に世が浮かれていたころ、登場したのが宮崎駿さんのアニメ「となりのトトロ」(88年)でした。宮崎さんは認めないかもしれませんが、私はトトロを妖怪(精霊)の一種と考えます。

 作品ではトトロやススワタリ(まっくろくろすけ)などが住む異界が描かれています。私たちを異界で遊ばせることで、日本の自然の美しさや怖さ、世の中の成り立ちの不思議さといった、現代人が失った豊かな世界観に気づかせてくれました。また、子どもの心には見える世界や、お金や物には代えることのできない価値の大切さも。たくさんの人が共感したからこそ、大ヒットしたのでしょう。

 ややもすると「絶対」と思いがちな現実世界の価値観から私たちを引き離し、忘れかけていたいろいろなものの見方を教えてくれる。そんな妖怪たちの存在を、私たちは求めているのかもしれません。

 (国際日本文化研究センター教授)

 ◆キーワード

 〈妖怪が人気を博した時代〉 細かくみると「例外」もある、と小松教授は言う。例えば昭和の戦前、戦中は、世の中に停滞感が漂い、先の見えない不安な時代。本来なら、妖怪がはやってもおかしくなかった。人々の興味や研究の対象とならなかったのは、「思想や言論の自由がなかったからだ」と教授は話す。

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