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妖怪と現代人:3(小松教授)

2008年4月26日

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 不幸を何かのせいにする人々の心を知りたい。

 その糸口が妖怪でした。

   *

 小学生から70代まで、多くの読者から「オリジナル妖怪」の答案をいただきました。夜遅くまで働く人や、愛用の文具を捨てようとした人に現れる――みなさんのストレスや後ろめたさを投影したような妖怪が目立ちました。「妖怪は私たちの心が干からびないように存在するのかも」と書いてくれた人もいます。小松教授が選んだ答案2点を講評とともに紹介します。

   *

 【宿題】オリジナル妖怪を考えてください。どんな姿や特徴を持ち、いつどのような場所に、なぜ現れるのか。500字程度で。イラストも歓迎です。

 ○浮いた心をわしづかみに

 小田島祥平さん(16)=高校2年、大阪市福島区

 人は後ろめたいと感じながらもつい欲望に負け、悪事を働いてしまうことがある。ふだんは体に寄り添っている心が浮き、離れ、すき間ができるからだ。そんな状態に陥った人間の前にだけ姿を現し、ファスナーを開いて心をわしづかみに奪っていく妖怪がいる。人間と同じぐらいの大きさだが、手に入れた心を体の下部にある袋に閉じこめてゆっくり食べ、肥え太っていく。心を食べられると、二度と善悪が判断できなくなる。

 ○水の無駄遣い怒る「水童」

 高山和子さん(62)=京都府宮津市

 ついつい水を流しっぱなしにして食器を洗ってしまう私。「水は生き物みんなのもの。大切にしよう」と誓うのだが、1週間もすれば元のもくあみ。そんな私の前に時々、汚水にまみれて真っ赤になった子どもの妖怪が現れる。「水童(みずわらべ)」だ。「水を無駄遣いしているのはだれだ?」。私に飛び乗ると、頭を押さえつけてくる。しばらくすると、すっと消えていなくなる。「今度こそ気をつけます。どうか出没しないでください」

 ◇講評

 《小田島さん》 「後ろめたさ」はいろんな機会に感じることですね。電車で老人に席を譲れなかったとき、いじめられている友達を助けられなかったとき――。でも、後ろめたさを感じるならまだ救いがある。反省し、今度はちゃんとしようと思うこともできるからです。でも、後ろめたさまでも食べてしまう妖怪が出現したら、この世は闇です。譲り合い助け合う思いがない殺伐とした世界にはしたくありませんね。

 《高山さん》 昔、河童(かっぱ)という妖怪がいました。川や海の水が、注意を怠れば命を奪うほど危険だということや、きちんと対応すれば富をもたらしてくれることを告げてくれました。〈水童〉は河童の子孫のようです。水が豊富な国に住んでいると気づきませんが、汚れた川にも、流しっぱなしの水道にも、水童が繁殖しています。早急にその退治方法を考えなければなりませんね。

 (国際日本文化研究センター教授 小松和彦)

 ◆先生に質問!

 《記者からの質問》

 妖怪を研究しようと思ったのはなぜですか。きっかけを教えてください。

 《小松先生の答え》

 大学生時代に、文化人類学や民俗学のフィールドワークで、埼玉県の秩父地方の農村に入り、住民から伝承を聞き集めました。

 その時、「金持ちになるためにキツネを飼っている家がある」という話を耳にしたんです。その家の人は、別の家にキツネを遣わして住人を病気にしたり物を盗んできたりする、というのです。これは一体何なのか。民俗学的に解き明かしたいと思いました。人間は、不幸が起きた時に、何かのせいにして納得しようとするのかもしれません。そうした人々の心を知るには大切な研究だと思ったんです。

 不安や不思議と感じる心のあり方に興味を持つうち、気がつけば、妖怪まで研究対象が広がっていました。

 ■もっと知りたい人へ

 「妖怪談義」(柳田国男著、講談社学術文庫)「遠野物語・山の人生」(同、岩波文庫)「日本妖怪変化史」(江馬務著、中公文庫)「不知火・人魂・狐火(きつねび)」(神田左京著、同)「妖怪と楽しく遊ぶ本」(湯本豪一著、河出書房新社)「江戸の妖怪革命」(香川雅信著、同)「江戸滑稽(こっけい)化物尽くし」(アダム・カバット著、講談社選書)

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