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死別の悲しみとケア:2(坂口准教授)

2008年5月17日

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写真関西学院大の坂口幸弘准教授=山崎虎之助撮影

 悲しい体験分かち合って。

 「立ち直り」だけではなく、新たな成長にもなります。

     *

 家族や親族以外も支援できる、社会の受け皿と情報の整備を。

 ●おさらい

 親しい人と死別したとき、悲しみ(グリーフ)の現れ方はさまざまで、必要とするケアも個人によって違う。核家族化や都市化が進み、家族・親族や地域の支え合いの力が弱まるなか、身近な人以外からのグリーフケアがますます重要になってくる。

    *

 実際、周囲の人は遺族をどう支えたらいいのか。まずは話をじっくり聞くことが大切です。心情を話すことで、遺族の気持ちは少し楽になるかもしれません。安易な励ましや押しつけがましいアドバイスをするのではなく、思いに耳を傾けるのです。

 そっとしておいてほしいと望む人には、独りぼっちではないことを実感できるよう、手紙や電話で思いやる心を伝え、静かに見守ることが支えになるかもしれません。

 生活を支えるサポートも大切です。たとえば家事や育児の手伝い。不規則で偏った食生活になる人も多く、食事の世話や料理を教えることも援助になります。

 死別後の行事や手続きへの助けも時には必要です。ホスピスで配偶者を失った121人に死別後に経験したストレスを尋ねたところ、7割が法事や税金、保険の手続きなどが負担だったと答えました。

    *

 日本には、独自のグリーフケアが存在しているとの見方があります。法事や法要です。家族や親族と故人の思い出を共有する▽記念日反応=キーワード=が懸念される節目の時期に行われる▽死別直後だけでなく長期に及ぶ――という点でケアの要素が含まれています。しかし最近は形骸(けいがい)化、簡略化が進み、その機能は薄れているようです。

 それを補う試みとして、複数の遺族らに集まってもらい、死別の体験を分かち合うことを通して、悲しみに向き合う力を高めようというサポートグループがあります。

 私は葬儀社が運営するサポートグループ「ひだまりの会」(大阪市)の活動にかかわっています。初参加の時にはうつむきがちだった人が、何度も参加するうちに表情が明るくなり、笑顔が出ることも珍しくありません。参加者からは「同じ思いの人がいることがわかってよかった」「気持ちが軽くなった」などの声が寄せられています。

 ただ、日本ではグリーフケアの態勢はまだ十分ではありません。医療機関や市民団体、葬儀社、行政などによる取り組みもありますが、連携は十分にはとれていません。この分野に詳しい援助者もまだ少ない。死別では心理面だけでなく生活や人間関係の変化など、様々な体験が派生します。その人に何が必要かは他人からは見えにくい。だからこそ豊富な受け皿と、遺族が自らの必要に応じて選ぶための情報整備が必要です。

    *

 グリーフケアは、悲嘆からの「回復」をめざすケアととらえる人が多いかもしれません。うつなどの症状改善を「立ち直り」とする視点です。でも実はそれだけではない。死別からの「立ち直り」は、単にマイナスに落ち込んだところから元の地点に戻るのでなく、新たな地点への出発、成長であるとも考えることができます。

 死別体験を通して生かされていることに感謝する人もいます。家族や友人とのきずなを改めて感じたり、経験をいかして介護のボランティアを始めたりする人もいます。個人差はありますが、こうした視点を持つことも大切ではないでしょうか。

 (関西学院大准教授 坂口幸弘)

 《記者から》

 夫をがんで亡くした女性に話を聞いたことがあります。三回忌が過ぎたころ、いたたまれないほどの寂しさに襲われるようになったのをきっかけに心理学に興味を持ち、やがて高齢者らの話に耳を傾ける傾聴ボランティアを始めたそうです。新たな地点へ出発し、成長を果たした遺族の姿でした。(十河朋子)

 ◆キーワード

 〈記念日反応〉 故人の亡くなった日や誕生日、結婚記念日などが近づくと、故人がまだ生きていたころの記憶がよみがえり、気分が落ち込むなどの症状が再び現れること。「命日反応」ともいわれる。日本は四季がはっきりしているため、季節の情景とともに過去の記憶が鮮明に思い出される傾向があるという。

 ○みなさんの「宿題」次週紹介

 あなたの喪失体験はどのようなものでしたか。他人の言葉や態度で印象に残ったものは? また喪失体験をした人にどう接しましたか。500字程度で。

 ◆宿題への投稿や、「ことば力養成講座」へのご質問は、〒530・8211 朝日新聞大阪本社教育班へ。ファクス(06・6201・3958)、メール(o‐syakai2@asahi.com)。住所、氏名、電話番号を。掲載分は電子メディアに収録します。

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