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急増する燃え尽き教師:1(新井肇教授)

2008年6月7日

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写真講義する新井肇教授=兵庫県加東市、伊ケ崎忍撮影写真バーンアウトに関する新井教授らの本=伊ケ崎忍撮影

 戦場なみのストレスの職。

 学校現場の環境が変わり、困難の度が増しています。

    *

 精神疾患での休職は10年で3倍。

 理想に燃えて無理をしがちです。

 理想に燃え、エネルギッシュに教壇に立っていた先生が、いつしか表情をなくし、やる気も失(う)せ、やがて学校から消えていく。そんな「バーンアウト」(燃え尽き症候群)に陥る教師が急増している、と兵庫教育大大学院の新井肇教授(56)は警鐘を鳴らします。良心的な教師ほど燃え尽きるという悲劇を、どう防げばいいのでしょうか。

 ここもまた 戦場なるか ひくことを せざりしともの 過労死をきく

 関西の公立中学校の元女性教諭が在職中につくった歌です。彼女も生徒と真摯(しんし)に向き合った末に、定年まで3年を残して教壇を去りました。

 近年、極度の心身の疲弊と仕事への意欲、他者への思いやりの喪失をきたす「バーンアウト」=キーワード(1)=に陥る教師が急増しています。それは文部科学省が調査した病気休職者の推移=同(2)=をみても明らかです。

 背景には学校現場の環境の変化があります。いじめ、不登校、校内暴力などに加え、ネット犯罪や児童虐待など新たな問題が教師の前に立ちはだかっています。家庭の教育力低下に伴い、本来家庭で行われるべきしつけまで要請され、行政による管理強化、保護者からの過大な要求とも相まって、教師にとって困難の度は増しつつあります。

    *

 もともと、教師はストレスを抱え込む宿命を背負わされているといえます。

 なぜか。東大の佐藤学教授(教育学)は、教職の持つ特性を次のように指摘しています。

 ひとつは授業中に私語が起きる、堂々と寝るなど、目の前の子どもたちから自分の授業への評価がじかに返ってくる「再帰性」。二つ目は教える相手が変われば以前はうまくいっていた態度、技術が必ずしも通用しない「不確実性」。前の学校では生徒から人望のあった教師が、転勤後に攻撃の的となる例も少なくありません。三つ目は数量化できない仕事はゴールが見えず、プライベートな領域にまで際限なく仕事が入り込んでくる「無境界性」です。

 そのため、国際労働機関(ILO)がかつて指摘したように「教師は戦場なみのストレスにさらされている」のです。

    *

 教師に一般的に共通する性格も、バーンアウトに陥りやすい個性と重なるところが多くあります。心理学の分野では、バーンアウトに陥りやすい人の特徴として(1)ひたむきで仕事熱心(2)妥協を嫌う完璧(かんぺき)主義(3)理想主義などを挙げています。

 子どもに熱心にかかわる、理想に燃え責任感のある性格は本来、教師に最も求められるものです。ところが、こうしたタイプの人がバーンアウトを引き起こす可能性が高いところに、悲劇があるといえます。

 理想のタイプゆえに無理を重ね、あるとき突然モーターが焼き切れるように仕事が続けられなくなるのです。

 私が相談にかかわった40代の高校の女性教諭は、家出、不登校、自殺未遂など生徒の指導に追われるうち円形脱毛症になり、次いで生理不順になっても意に介さず働きました。突発性難聴になって初めて医者にかかり、「あんた、死ぬ気か」と言われました。

 彼女は「顕著な身体症状が出てよかった。症状が出ず仕事を続けていたら、どうなっていたかわからなかった」と述懐しています。

 次回、教師をバーンアウトから救う対処法を考えます。

    ◇

 新井肇(あらい・はじめ) 兵庫教育大大学院教授。埼玉県立熊谷高校、同小川高校定時制教諭などを経て06年から現職。専門は生徒指導、学校カウンセリング。著書に「教師崩壊―バーンアウト症候群克服のために」(すずさわ書店)、「青少年のための自殺予防マニュアル」(金剛出版、共著)など。

 《記者から》

 子どもたちの問題行動の質が変わってきている、と新井教授は言います。教師が生徒指導で注意しても、正面からの反抗はなく、「チッ」と舌打ちされたり「シカト」されたり。投げたボールが返ってこずコミュニケーションが成立しない。これがボディーブローのように効く。特に長い経験から確固たる教育観を築いたベテラン教師ほど戸惑いは大きく、燃え尽きの危険性が高いそうです。四半世紀前、私が学校にいた時代とは、まるで違う空気が流れているようです。(大出公二)

 ◆キーワード

 (1)バーンアウト 医師や看護師、教師など人を相手にする専門職に特有のストレス。70年代半ば、米国で提唱された。仕事に精魂を傾けるなかで消耗し、自己嫌悪や無力感に陥り、仕事を続けられなくなる状態をさす。単なる疲労と異なり、強い幻滅感を覚えることに特徴がある。

 (2)病気休職者の推移 06年度の全国公立学校教職員の病気休職者のうち、精神疾患による休職者は4675人で全体の61.1%を占め、過去最高だった前年度を数・割合とも更新した。病休者は過去10年間増加傾向にあるが、精神疾患の休職者の増加率はそれを上回る。96年度の1385人に比べ3倍を超え、病休者全体に占める割合は36.5%から大幅増となり、「燃え尽きる教師」の急増を示唆している。

 ○受講のみなさんへ宿題

 仕事や育児などで燃え尽きそうになったとき、燃え尽きてしまったとき、あなたはどうやって立ち直りましたか。燃え尽きの原因と克服のきっかけ、方法を、具体例を交えて500字程度で記してください。

 まじめで責任感が強く熱心な人ほど燃え尽きやすい、と新井教授は指摘します。ぎりぎりの局面からの再生の物語は、悩める先生たちへのエールにもなるはずです。寄せられた答案の一部を23日の紙面で紹介する予定です。

 ◆宿題への投稿は、〒530・8211 朝日新聞大阪本社教育班へ。ファクス(06・6201・3958)、メール(o−syakai2@asahi.com)。住所、氏名、年齢、電話番号を。掲載分は電子メディアに収録します。

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