かつて、途方に暮れた私を支えたのは同僚でしたが、今、そんな空気は希薄です。
*
話し合う場を持ちにくければ、意図的に設けるのも手でしょう。
●おさらい
子どもに熱心にかかわる、理想に燃え責任感がある――本来最も求められるタイプの教師ほどバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥りやすい。状況は、多様化する子どもの問題、保護者の過大な要求など学校現場の環境の変化により、深刻さを増している。
私が教師のメンタルヘルスの問題に取り組んだきっかけは、高校教諭時代のある教え子の死でした。
彼は志望して高校の教師になりましたが、3年目にうつ病になり、命を絶ちました。生徒とのかかわりに悩んでいたようでした。
葬儀に集まった教え子のうち10人余りが教職についていました。彼らにとって、旧友の死はひとごとではなかった。「おれも辞めたい」「むなしくなってくる」と何人もが嘆いていました。
私も若いころ、家庭内暴力、自殺未遂、家出を繰り返す生徒の担任をしたことがありました。両親が不仲なこともあり、私はこの生徒のためにと、公私の区別なく家庭内の問題にも踏み込んでいきました。そのうち、親や本人から夜中にも呼び出されるようになり、状況はむしろ悪化してしまいました。
途方に暮れ、崩れ落ちそうになった私は、同学年の教師仲間の支えでなんとか持ちこたえることができました。家庭訪問はできるだけ1人にさせない、その生徒に厳格に、または寛容にあたる人を役割分担するなどバックアップをしてくれたのです。
教え子の死を聞いたとき、思いました。若くして逝った彼は、どうだったのかと。
*
教師をバーンアウトから守るには、孤立させず職場全体で支えることが大事です。教師自身の心理的負担の軽減につながり、問題行動を起こす生徒への理解も複数の目で見ることで深まり、適切な支援につながるかもしれません。
そうした「協働的な生徒指導のススメ」は叫ばれてきましたが、特に今はうまくいかない。弱みをさらけ出し、何でも話しあえるような職場の空気が薄いのです。
かつての学校にはストーブを囲む炉辺談話、職員室のお茶の時間、帰りがけのちょっと一杯というフォーマルとインフォーマルの要素が溶け合ったつながりがありました。今はそれが持ちにくい。協働の実現が難しいゆえんです。
背景に学校環境の変化があります。校内のあらゆることに説明責任が求められ、記録を残す事務作業が飛躍的に増えました。多忙も手伝って人間関係が希薄になり、隣の先生への業務報告もメールで済ます。マイカー通勤が増え、勤務終了後に飲めない。
*
教師同士、互いに知り合う機会が持ちにくいなら、意図的にそうした状況をつくり出さなければなりません。
私が講師を務める校内研修では、インシデント・プロセス=キーワード=という事例研究法を採り入れ、ひとりの先生が抱える問題をみんなで話し合い、解決を探ります。すると、「こんな機会は学校になかった」という人がけっこういるのです。校内で意思決定する際に、この手法を応用して議論の場をつくる学校もでてきました。
校長がトップダウンですべてを決めるのではなく、ボトムアップで学校づくりを進める。話し合うことによって、個々の教師が「こんな悩みを抱えているんだけど、聞いてくれる?」と言える雰囲気が醸成されるのです。
(兵庫教育大大学院教授 新井肇)
《記者から》
人を相手にする専門職特有のバーンアウトの危険は、教師に限らず多くの職場に潜んでいます。その対処法は同僚の助け合いだ、と新井先生は言います。困っている人に気づき手を差し伸べているか、困っているときに声を上げ救いを求めているか……。省みるに、胸を張って「はい」とは言えません。(大出公二)
◇キーワード
〈インシデント・プロセス〉 参加者全員が体験学習の形で行う事例研究の方法。事例提供者の報告に対し、参加者が質問することで問題の全体像を理解し、解決方法を集団で立案する。生徒指導について個々人ではなく組織として取り組む、参加者が互いに理解し、意思疎通を通じて友好的な感情を育てるなどの効果が期待できる。