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デザインの力:1(川崎教授)

2008年11月22日

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写真刃物類、灰皿、キッチン用のスポンジなどデザインした作品を前に語る川崎教授=大阪府吹田市の大阪大、南部泰博撮影

 「きもち」や「いのち」を思いやりの「かたち」に。モノづくりのすべてです。

    *

 機能も性能も効能も。まず、「わがまま」になることです。

 日用品、家具、電気製品など身の回りにステキなデザインの製品が増えてきました。でも「デザイン重視は使い勝手が悪い」と思っている人もいるのでは? 工業デザイナーの川崎和男・大阪大大学院教授(59)は「それはデザインじゃない」と言います。日常生活から国際平和の提案にまで及ぶというデザインの力を語っていただきます。

 デザインとは、製品の見た目のことだと思っていませんか? それは誤り。本来は機能・性能・効能も含めたモノづくりのすべてを意味します。日本ではファッションからデザインという言葉が入ったため「装飾」と同じ意味にとられがちですが、ヨーロッパでは工業デザインや建築を最初にイメージします。

    *

 良いデザインはどうしたら生まれるのか。人はどんなモノが欲しいか、何が心地よいか、自分の気持ちは自分で一番よく分かります。だから、デザイナーは、まず「わがまま」になることです。

 私は28歳の時に交通事故に巻き込まれ、車いすの生活を余儀なくされました。でも、従来の車いすには乗りたくなかった。重いし、格好悪い。街に出かけたくなる、スニーカーのような車いすが欲しかったんです。それで約8年間かけてデザインしたのが、89年発表の「CARNA」(カーナ)です。

 チタンとアルミを使い、重さは12.5キロと軽く、ボコボコしたエアクッションで体は疲れにくい。小さく折りたたむこともできます。現在、世界中で約80台使われていて、ニューヨーク近代美術館に永久収蔵されています。

 いま、心臓と丸々取り換える全置換型の人工心臓のデザインを研究中です。98年に第1号が完成。改良を重ね、第3号ができています。トポロジー(位相幾何学)=キーワード=という数学を元に複雑な心臓の形を数式化し、ドロドロの特殊な樹脂にレーザー光線を当て、当てた所だけ固まる「光造形システム」という装置でつくります。

 コンピューター制御で、燃料は今はリチウム電池。8年前から東大医学系研究科医用生体工学講座のチームとヤギに埋め込む共同研究をしていますが、最長約600日まで生きています。

    *

 実は、私は45歳の時から心臓病を患っています。もし心臓移植が必要になったら、自分でデザインした人工心臓を入れたいという思いがあるのです。

 将来、人の感情の起伏に連動して鼓動を打つようにしたい。左胸でなく、個々の内臓のそばで血液を送る分散型もできるかもしれません。

 自分がたばこをやめたくて、使いにくい灰皿「SYMPTOMS」(禁断症状)もわざと考えました。故郷福井県の伝統工芸との融合にも挑んでいます。約750年の歴史のある越前打刃物では、伝統工芸士の職人たちと一緒に、販売・体験教室などの施設「タケフナイフビレッジ」(同県越前市)を81年から約10年かけて立ち上げ、刃から柄まで一体化した衛生的な包丁などを作りました。グッドデザイン賞はじめ海外のデザイン賞も受賞しています。

 デザインの印象が変わりましたか? 作り手が「きもち」や「いのち」を、思いやりの「かたち」に変えたもの。それがデザインなのです。

 次回は国際平和へのデザインの貢献について考えます。

    ◇

 川崎和男(かわさき・かずお) デザインディレクター、大阪大大学院教授、名古屋市立大名誉教授。専門は先端デザイン工学。人工心臓の研究で医学博士。日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審議委員会委員。日用品、伝統工芸、コンピューターなど幅広く手がける。福井県出身。

 ◇キーワード

 <トポロジー> 18世紀の数学者オイラーに端を発し、20世紀に入ってから本格的に発展した現代の幾何学。図形を切断せずに伸縮させて連続変形させた時の普遍的な性質を探る学問。医学、生命科学、経済などの分野に応用されている。

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