現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 教育
  4. 大学
  5. 紙上特別講義
  6. 記事

非行から見えてくるもの:2(藤川教授)

2009年1月10日

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 このエントリをYahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真京都ノートルダム女子大の藤川洋子教授=京都市左京区

 反省できないのを責めず、「反省なき更生」の道も探るべきなのです。

    *

 一貫した態度で社会のルールを教えるのです。

●おさらい

 なぜ、その子が非行に走ったのか。事情を調べても説明がつかなかった行動の背景に、生まれつきの脳機能の障害である発達障害が潜んでいることが認められ始めたのは、90年代の後半だった。05年の発達障害者支援法の施行などで、ようやく支援体制が組まれ始めた。

 発達障害の中でも、自閉症を中核とする広汎性発達障害(PDD)は、不幸にも子どもの犯罪や非行との関係で注目を浴びるようになってしまいました。

 実際に犯罪や非行に走る子はごく少数なのですが、概して集団の中で孤立しがちです。知的な遅れがなく、一見「ふつう」の子どもだけれど、他人の感情が理解できずうまくコミュニケーションがとれない。自分の行動について「他人から快く思われないだろう」といった他人からの視点を認識できない。それで疎外され、深い心の傷を負い、非行に走る「二次障害」のケースが目立ちます。

 彼らに社会性が身につかないのは生まれつきの脳の障害に由来するのに、発達障害が広く認知されるまでは親の養育の問題だととらえられがちでした。医学界でも、かつては「『冷蔵庫のような(冷たい)母親』が自閉症児をつくる」と指摘されるなど、親の愛情不足、努力不足に原因を結びつけていました。

 発達障害は生まれつきで一生続きます。しかし、適切な支援をすれば障害が目立たなくなり、環境に適応できるようになります。それには、早期に周囲が障害に気づき、支援の環境を整えることが求められます。では、発達障害があるとわかったら、親や周囲の人たちは、どう臨めばいいのでしょうか。

    *

 一般に、非行少年には、まず反省が求められます。しかし、PDDの子は社会から何を求められているかがわかりにくい特性があり、時にとんちんかんな対応をしてしまう。それで「本当に反省しているのか」とたたみかけられるという悪循環があります。

 一例をあげます。父親に激しい暴力を加えた19歳の少年が、少年院で「自分の罪を反省する」という課題を与えられました。彼は懸命に考え、面接した私に言いました。「何度反省しても、64発でした」。彼にとっての反省は、父親を殴った回数を念入りに数えることだったのです。

 「心からの反省」を求めることは、しばしば永遠の平行線を意味します。こうした非行少年には「反省なき更生」という道も探るべきです。

    *

 「私にはあなたの思いがわかるよ」と言うような「受容と共感」のアプローチも好ましくありません。人により接する態度が変わるのは、かえって混乱を深める結果につながります。

 一貫した態度で社会のルールを教えることが大切です。反省できないのを責めるのではなく、安心できる居場所を提供し、そのうえで社会で生きていくにはどうすればいいのか、その人の特性に合ったライフスタイルを一緒になって探していくのです。

 そして何より重要なのは、周囲が発達障害について理解することです。PDDの子どもはわれわれよりずっと純粋。特定の分野に強いこだわりを持つ特性は、優れた業績をもたらすこともあります。

 みんな同じではない。みんな違って、みんないいのです。

 (京都ノートルダム女子大教授 藤川洋子)

《記者から》

 アスペルガー症候群が初めて報告されたのは1944年ですが、日本で広く認知されるようになったのは90年代の後半でした。その間、どれほどの人たちが世間の無理解に苦しんだのか。早く知っていれば、多くの子どもを救えたのでは。家裁調査官だった藤川教授が研究を続ける根本には、そんな思いがあるようです。(大出公二)

◇キーワード

<広汎性発達障害> (1)他人との交流がスムーズにいかない(2)言葉の発達の遅れがある(3)興味や関心が偏りこだわりが強い――という特徴が、3歳くらいまでに現れる。このうち、知的障害を伴わないものを高機能自閉症、さらに言葉の発達に遅れがないものをアスペルガー症候群と呼ぶ。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内

[PR]注目情報

ここから広告です

広告終わり

ジャンル別の最新情報はこちら
  • 大学
  • 中学・高校
  • 専門学校