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死生学:1(藤井准教授)

2008年1月31日

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図

 死は生の一部なのに生死の場が病院に移り身近に感じないのです。

   *

 どう死ぬかを考えることはどう生きるかを考えることです。

 病気もなく、災いもなく過ごしていると、死を意識することはあまりありません。漠然と不安を感じることはあっても、たいていの人は、死を突き詰めて考えることはないでしょう。でも、関西学院大で「死生学」の講義をしている藤井美和准教授(49)は「死と向き合って」と言います。なぜなのでしょうか。

 多くの人は死に直面したとき初めて「生と死」について深く考えていなかったことに気づき、大きく動揺します。

 私もそうでした。新聞社に入社して6年、28歳のときに後頭部が急に痛みだし、数日後にはまひが全身に広がっていました。数万人に1人とされる急性多発性根神経炎という難病でした。指も動かせず、まばたきもできません。呼吸困難になり、命も危ない状態でした。

 人生を振り返り、真っ先に浮かんだのは家族のこと。大切な家族に何もしていないうちに死にたくない。神様、もう一度チャンスをください。人のために何かしたと言える生き方をして天国に行きたい。必死で祈りました。

 好きな仕事をやり、充実していると思っていました。しかし、死の瀬戸際になって、何を大切にして生きるべきだったかわかったのです。

   *

 人はなぜ生と死を身近に感じられないのか。生死の場所の変化=キーワード(1)=と核家族化がかかわっています。60年ほど前、生死の場の大半は自宅でした。赤ちゃんは家族に自宅で迎えられ、亡くなるときも自宅で「ありがとう」と言い合って手を握って別れたのです。現在はいずれも病院に移り、日常から切り離されてしまいました。

 一方、幼少期からゲームやテレビの中の「仮想の死」にさらされた子どもは、リアルな死の感覚に乏しい。小中学生の15%が「死んだ人が生き返る」と答えた長崎県教委の調査=同(2)=もあります。

 学生も死への不安を感じつつも、どう向き合ったらいいかわからないでいます。私は初回の講義で、「死とは○○である」の一文をつくるよう求めます。多いのが「終わり」「消滅」です。次に「悲しいもの」「怖いもの」。「未知なもの」もあります。

   *

 私が講義でしている実践をもうひとつ紹介します=表参照。

 紙に左から右へ1本の横線を引きます。次にそれに沿って、これまでに経験したこと、これから起こるであろうことを書きます。誕生、入学、卒業、受験、いじめ、恋愛、失恋、結婚、出産、病気、死別、自身の死……。それぞれに年齢を入れます。最後に感情の浮き沈みを曲線で表し、出来事をつなぎます。横線の上がプラス、下がマイナスの感情です。

 まさに山あり谷あり。多くの人はグラフをつくるなかで、就職や恋愛はしっかり意識しているのに、「人生最後の大仕事」である死を考えていなかったことに気づきます。死は生の一部なのです。

 死生学を少し学んだからといって、死への恐怖がなくなるわけではありません。ただ、多くの人が、否定的にとらえていた死に積極的に向き合うようになっていきます。

 講義の最終回、また一文をつくってもらいます。なお否定的な人もいますが、「学ぶべきもの」「感謝」「永遠」「親しい人との再会」と受け止める人が出てきます。

 死から逃げないでください。どう死ぬかを考えることは、どう生きるかを考えることなのです。

   ◇

  藤井美和(ふじい・みわ)関西学院大准教授。新聞社勤務を経て、90年に関学大に学士編入し、ワシントン大(セントルイス)で死生学を学んで博士号を取得。99年から関学大で死生学を教えている。現在は同大学の死生学・スピリチュアリティ研究センター長も務める。主著に「たましいのケア」。

 ◆キーワード

 <(1)誕生と死亡の場所> 厚生労働省の人口動態調査などによると、1950(昭和25)年は8割以上の人が家で亡くなり、赤ちゃんの9割以上が家で生まれた。76年に、自宅での死の割合と、病院や診療所などの施設での死の割合が逆転した。06年の統計では、死を迎えた場所は施設が85.4%なのに対し、自宅は12.2%。誕生の場所は60年に施設と自宅がほぼ半々になった。06年は施設が99.8%を占めた。

 <(2)長崎県教委の調査> 04年実施。同県佐世保市で小6の女児が同級生に刺殺された事件を受け、生と死に関する意識を小4と小6、中2の計3611人から聞いた。「死んだ人が生き返ると思いますか」の問いに、「はい」が15.4%。「人の話などを聞いて」「テレビや映画で見た」といった理由が多かった。

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