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関西国際大学学長 濱名篤氏

2007年05月01日

 学生の面倒見の良さでは定評のある関西国際大学(兵庫県三木市)。短大から4年制の大学となり10年目を迎え、さらなる充実を目指している。2009年春には同県尼崎市に新キャンパスを開くなど改革の先頭に立つ濱名篤学長に話を聞いた。

写真関西国際大学学長 濱名篤氏

 ――数年前、大学生が使うテキストだといって「知へのステップ」を見せられた時は驚きました。ノートの取り方や図書館の使い方から、インターネットによる情報収集の仕方、レポートの書き方まで懇切丁寧に説明、解説してある。確かに便利な本だと思いますが、こんなことを大学が学生に教えるのか、という意味の驚きです。

 濱名 そういう声はよく聞きました。しかし、アメリカではハーバード大学をはじめほとんどの大学でグレードの違いはあれ、この種のテキストを使い、入学したばかりの1年生に、いわゆる大学での『勉強の仕方』を必修科目としてきちんと学ばせることが一般的です。「スタディスキル」と呼ばれ、こうした基本的なスキルを身につけたうえで、専門的な学びを深めています。

 日本の大学はこうしたことをやってこなかった。最近は、大学進学率が約50%になり多様な学生が入学してきます。学力低下の問題も声高にさけばれるようになっています。こうしたなか、学生の側に立てば、ほんの1カ月前まで「生徒」と呼ばれる高校生であったのが、大学1年生となり、生活環境も勉強方法も激変する。そのうち、レポート提出を求められる。「レポートってどう書いていいのか分からない」ということになる。書き方を教えてもらったことがないのですから、そうなるのも当然です。

 関西国際大学では、そうした状況を変え、高校から大学への学びに円滑に移っていけるように、1年生には「知へのステップ」をテキストにした「学習技術」という科目を必修にしています。もちろん単位認定もします。そこできちんと大学で学ぶスキルを身につけてもらってから次のステップへ進んでもらっています。

 ――それにしても「知へのステップ」は至れり尽くせり、といったテキストですね。詳細に見ると例えば、リーディングの基本スキルの章では、文章の読み方の種類から、要約の仕方、レポートの書き方に至っては読点の打ち方まで解説してあります。

 濱名 大学側から見れば、お金を払ってもらっているのは学生なのだから、学生に満足してもらう教育環境を整えていかなければいけない、我々はそう考えています。関西国際大学は研究より教育、すなわち入学してきてくれた学生が成長を実感できる教育を目指しています。私は学生に、大学では「何を学ぶか」ではなく「何ができるようになるか」を考えるように常に言っています。そのための学びを保証することが大学の責務だと思っています。こうした視点から、「知へのステップ」を作るに当たっては、1998年の大学開学以来、上村和美先生を中心に学生の生の声を生かしながら授業実践を繰り返し、改良を加えてきました。そして2002年4月に、1冊の本として出版しました。学生に本当に役に立つものを作ろうということを主眼にしていましたから、まさにご指摘のように至れり尽くせりの内容になりました。出版当初には先ほども言われましたが「大学でそんなことまで教える必要があるのか」という反応が多かったのは事実です。しかし、いまでは180の大学に採用されるようになり、昨年10月には改訂版を出しました。私立の中高一貫校などでも使っていただいている例があるとも聞いています。

 ――このほかにも多彩な学習支援をしているそうですね。

 濱名 「知へのステップ」を使ってくださっている大学の方から、スキルは身につくようだけれども、学習意欲を高める方にはどうもつながらないようだ、という声を聞くことがあります。確かに、スキルを身につけるだけではそこまでは難しいでしょう。スキルというのはあくまで道具ですから、自分の本来の目標達成のために、その道具をいかに使っていくか、といった指導が必要です。また最近は社会の変化のスピードが速く「ジェネリック・スキル」といわれるコミュニケーション能力や課題解決能力といった力が求められています。関西国際大学では、こうした能力を獲得できたり、モチベーションを高めるたりするために、この「知へのステップ」を使った「学習技術」という必修科目のほかに、初年時教育として、プレゼンテーション能力を高めるための講義や、「キャリアプランニング」という科目も設けています。こうした科目に対応する「プラクティカル・プレゼンテーション」「知のワークブック」といったテキストも作りました。

 このほか、通常の講義の枠を超えて勉強したい学生には、学習支援センターが様々な対応をしています。学生のやる気を引き出すために、世間で流行しているマイレージを取り入れた「キャンパス・マイレージ制度」も始めました。

 ――なるほど。学生の学びに対するモチベーションを上げるために、できることは何でもしようという姿勢が感じられますね。

 濱名 そうです。やはり関西国際大学へ入学して良かったと、学生に実感してもらいたい。「キャリアプランニング」では、学習技術という道具をどう使って自分の目標を実現していくか、学生一人ひとりに考えてもらい、自身の目標をできるだけ明確にしていってもらいます。具体的には、学生自身が自己分析結果やレポートなど、自分の学習成果を収めた「ポートフォリオ」を作成してもらいます。こうした記録を4年間し続けることで、自己の目標管理や学習到達度がそのつど確認でき、自身の成長を具体的に実感し、目標達成へ向けた意欲を高めていってもらいます。今年度からは「Eポートフォリオ」というシステムを導入し、こうした記録や計画をコンピューター上で作り上げていくことにし、より活用しやすく工夫していきたいと思っています。

 ――「キャンパス・マイレージ」制度というのは。

 濱名 これは学生からでてきたアイデアです。学生のやる気を引き出す仕組みとして、学業成績だけではなく幅広い活動や取り組みについても評価するためにできました。資格・検定取得をはじめ、クラブ活動やボランティア活動などの成果に対して、決められたポイントを与え、原則として年2回、大学生生活に必要ないろいろな特典に交換できます。特典は貯まったポイント別に、アメリカや中国への海外研修に参加できたり、電子辞書がもらえたりする一方、スクールバス定期券や学生食堂の食券などと交換できるなど幅広く用意しています。こうした特典の中身や仕組みの改善には、教員、職員、学生によって構成された「キャンパスマイレージ・レフリーコミッティ」が年数回開かれて協議しています。

 ――学習支援センターは具体的には、どういった活動をしていますか。

 濱名 こちらについてはセンター長の米田先生に詳しく説明してもらいましょう。

 米田 例えば、ある学生が「将来は海外で働きたい。留学もしてみたい」という希望があれば、学習支援室の専任スタッフに気軽に相談してもらえばいいわけです。支援室は午前9時半から夕方5時まで開いており、学生が気軽にふらっと相談に訪れられるようにスタッフが常駐しています。先ほどの学生の相談ですと、学内で実施している英語力判定テストをまず受験してもらい、英語能力を測るように進めます。そして判定された結果に合わせて、センターで実施している英語の講座を受講してもらいます。その一方で、留学事情に詳しい教員につなぎ、学生の希望を実現できるように学内の資源を最大限に活用して支援します。

 ――そういえば、取材にうかがった時にも、2人の女子学生が先生から数学の指導を受けている光景に出くわしました。また、自習教材を見ると、今はやりの100ます計算プリントや公文式のドリルまで用意されていますね。

 米田 そうです。大学に入るまでの義務教育、高校レベルの学習でつまづいているケースもあります。そうした場合に幅広く対応できる態勢を取りたいと思っています。センターでは「数学の復習」や「英文法を復習しよう」といった基礎講座も設けていますが、小学校教員や公務員の採用試験などの受験対策講座も開講しています。このほか、正規の単位としても認められる診療情報管理士の資格講座や教職演習なども設けています。学生から要望のあったものは学内で調整してできるだけ実現させようと努力しています。

 このほか、学習支援センターオフィスを設け、教員が交代で常駐。授業内容の質問から進学・留学の相談、「授業内容が分からない。どうしたらいいか」などの相談まで受け付け、懇切丁寧にサポートしています。教員には正規の講義以外でも自分の執務室に居るのではなく、学生からのアプローチが受けやすいセンターオフィスにおり、常に学生に寄り添えるように心がけてもらっています。

 ――4年制大学となって10年目。一つの節目だと思いますが、今後の展望についてはいかがですか。

 濱名 先ほども言いました、研究より教育、学生に入って良かったと実感してもらう大学でありたい、という考え方は変わりません。学生の満足度も高いようで、兵庫県以外から入学してくる学生は半数を超えます。まさに北海道から沖縄までにいろいろな地域から評判を聞いて来てくれています。

 ただ、これまで初年次教育に力点を置いてやってきましたが、その次をどうするか、少し中だるみが出ているのではないかといった反省はあります。専門教育へ移るまでの2年生の教育をどうするかといった課題が見えてきましたので、今後具体的に探っていきたいと考えています。

 変化の激しい現代は、とにかく学生の満足度を上げるためには日々改革を進めるといった気持ちを持ちたい。これまで経営学部総合ビジネス学科と人間学部に人間心理学科、教育福祉学科、英語コミュニケーション学科といった2学部4学科体制で運営してきましたが、今年度から、その変化に対応するため教育学部と人間科学部という新しい学部構成に変えました。2009年度には教育学部を中心に、新しい尼崎キャンパスに移す計画もあります。絶えず、関西国際大学の教育が新たな活性化が図れるように私も先頭に立って努力していきたいと思っています。

【略歴】1956年生まれ。兵庫県出身。上智大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程単位取得。教育社会学、高等教育論が専門。国際日本文化研究センター客員教授や文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム」テーマ別審査部会第2審査部会委員なども務めている。

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