現在位置:asahi.com>教育>大学>大学学長インタビュー> 記事

清泉女子大学学長・岡野治子氏

2007年11月1日

 ◆少人数教育による人格的ふれあいを通して、学生の潜在能力を引き出す。

写真

清泉女子大学学長 岡野治子氏

 清泉女子大学はJR品川駅、五反田駅などを最寄り駅とする都心に立地。しかも、東京都選定歴史的建造物に指定された旧島津公爵邸をキャンパスとしている。1917年に落成したイタリアルネサンス調の建物と、緑豊かな環境で学ぶだけでも良い思い出になりそうだが、注目すべきなのは1学年450名程度の小規模な女子大学ということだ。学生、教員、職員とのつながりや触れ合いが緊密であり、アットホームな雰囲気の中で、キリスト教精神に基づいた「心の教育」も行われている。「そのせいか、卒業生の愛校心も強いですよ」と語る岡野治子学長に、大学の近況を聞いた。

 ◆教えるのでなく、個人の力を引き出す

 少人数教育は清泉女子大学の大きな特徴ですが、それだけでなく、教える考え方そのものも異なっています。教育といえば上から押しつけるイメージが強いのですが、清泉ではエデュケーションの語源であるラテン語の「エドゥカチオ」を重視しています。その意味は「一人一人の潜在能力を引き出すこと」。どんな人にも、それぞれ固有の力が備わっていますから、その力を最大限に引き出してあげることが、私たちの教育の基本的なスタンスなのです。

 最近は女性のほうが元気がいいといわれますが、それでも「女性だから」という社会的な規制がなくなったわけではありません。このため、たとえば自然科学や数学といった女性には苦手とされる分野に才能があったはずなのに、それに気づかないというケースもあるでしょう。ですから、清泉は五つの学科を持つ文学部だけの単科大学なのですが、共通科目の中に自然科学に属する科目も含まれています。

 また、入学時点の専攻だけでなく、2年次からは学科の枠組みを越えて選択できる副専攻として五つのコースも設置しています。入学時点でなく、約1年間を大学で過ごしてから自分で決められるので、より意識的に自分の将来を作ることができる制度といっていいでしょう。各コースの必要単位を履修すれば、卒業時には副専攻の修了証が授与されるので、就職などの際に自分をアピールする材料にもなるはずです。

 こうした科目を学ぶ中で、自分の力を発見し、卒業後は広い意味でのリーダーシップを発揮していただきたいのです。リーダーシップといっても、会社で幹部になるだけではなく、家庭の中で、あるいは地域で主体的な役割を担うことも含まれています。清泉では「まことの知・まことの愛」の追究をモットーとしていますが、生きるという原点に根ざした主体性をぜひ学びとっていただきたいですね。

 ◆心と健康をサポートするウエルネスセンター

 1学年450名が4年間を通して、この島津山のキャンパスで学びますから、学生同士はもちろん、学生と教員、それに職員とのつながりは自然に緊密になります。それだけでなく、学業面ではノック不要で教員にいつでも相談できるオフィスアワーを設定しているほか、学年アドバイザーが学生の面倒を見ています。

 また、専門の医療スタッフやカウンセラーが心身の健康をサポートするウエルネスセンターも、清泉ならではの施設ではないでしょうか。小・中・高校と受験勉強だけで成長してきた人は、大学に入って急に方向を見失ったり、不安に陥ったりします。

 大学は健康な社会人を送り出すことも重要な責務ですから、そうした学生のケアも充実しているということです。勉強や大学生活などの相談についても、大学院生や先輩学生が対応する「サポートルーム」がセンターの中にあります。年齢の近い世代と交流して実体験などが聞けるほか、先輩学生にとっても後輩をアドバイスするということから、リーダーシップの育成にもつながるという効果がありますね。

 ◆今だからこそ「心の教育」が必要

 清泉はキリスト教精神を建学の理念とした女子大学ですが、モラルハザード(道徳・倫理の崩壊)、拝金主義が横行する現代にあって、その役割はますます重いものになってきたと自覚しています。また、物質万能の社会の中で、心が置き去りにされており、それによる孤独が犯罪や不幸を招くことも珍しくありません。

 特に大学の1〜2年次には、友人がいなくて寂しいとか、他人が見ればつまらないことでも孤独に陥る時があります。しかし、孤独は心をさいなむだけのものではなく、ちゃんと意味があり、それは克服した時にこそ実感できるのです。先に触れたウエルネスセンターに相談もできますが、清泉では1年次に人間論、2年次にキリスト教学、3年次にもキリスト教学として、教員が自分の経験などを交えて心の教育を行っています。

 女子大学であることも、こうした心の教育にメリットがあるように思います。男性の視線を意識せず、胸襟を開いて女性同士で語り合い、学びあうことで、自分の潜在能力と向き合えると思います。

 共同研究や発表などの学業はもちろん、学園祭なども女子学生の手づくりなので、意外な才能を発見することもしばしばなんですよ。共学であれば男子がやる大工仕事も女子学生がやることになり、思ったよりも上手にできたと自信を持つ学生がいるのです。こんなこともできた、あんなこともできるという体験からも、潜在能力を見つけることができるのです。

 女性学についても、社会学的なジェンダー論から、男女共生学、人間論、文化論など多彩にアプローチしています。かつてのように女性の権利を無理やりに拡張していく時代ではなく、男性と共に社会を形成していく「パートナーシップ」が主眼。その中で、各人がどんな能力を発揮していけるかということなのです。

 ◆グローバルな視野と発想を育成する

 清泉の5学科の中で最も新しいのは、2001年に設置された地球市民学科です。この名称から分かるように、グローバルな視野と発想を持ち、地球社会に貢献できる人材の育成を目標としています。生きた語学が学べるだけでなく、フィールドワークを重視していることが特徴。1〜2週間にわたって海外に出かけて、地域研究などを通して異文化を実体験します。今年はインドとマラウイに行きましたが、みんなたくましくなりますよ。

 地球市民学科の学生が中心となり、毎年行っているイベントにハンガーバンケット(飢餓の宴)があります。これは参加者が食事をとおして世界の食糧事情を模擬体験し、貧困問題について自分たちに何ができるかを考えるプログラムです。学生たちはこのような課外活動でも地球規模の問題に取り組んでいます。

 また全学での取り組みとして「国際学生シンポジウム」を開催しました。1回目に続き、2回目の今年も環境教育をテーマに海外から招いた学生たちと話しあいました。企画運営、資金調達、企業協賛の依頼など学生主体で行い、文部科学省、環境省などからも後援をいただきました。

 英語でプレゼンテーションやディスカッションも行うので、語学力も人間力も身につく素晴らしい取り組みだと思います。同世代の海外学生との交流も、将来的に役に立つはずです。

 ◆キャリアプランニングで自分づくり

 高校まで「いい子」であり過ぎて、大学に入学してから主体的な勉強方法などが分からないという学生が増えているようです。清泉でも、そうした学生に配慮して、初年次教育を充実させています。もともと少人数教育が主体なので、授業を通して教えていくことも可能ですが、1年次は教養、英語、PCスキルなど各専門分野の基礎づくりに力を入れています。

 同時に、1年次から各学科の専門教育と並行して、キャリアプランニングの授業を共通教養科目にしています。社会人として自立するための考え方、教養、基礎力を身につけることが目的です。仕事とは何か、働くことにどんな意義があるのかといったテーマを、各界の専門家や人事コンサルタントを招いて講演していただくことが中心ですが、清泉の卒業生も社会で活躍している人が少なくありません。

 そこで卒業生も「キャリアモデル」として招いています。これも女子大のメリットであり、学生にとって自分の目標にすべき生きたモデルと出会える貴重なチャンスといえるでしょう。そして、自分に自信を持ち、自分で決心して表現して実行し、その結果にも責任を持てる自主性を持つこと。幸いに、就職希望者による就職率は各学科ともに95%以上ですから、成果は出ていると判断しています。

 私たち教員・職員も、定期的に建学の精神の研修会を行っていますが、小規模大学ですから、特に号令や指示などをしなくても暗黙のうちに理念が共有でき、それが自然に学生にも伝わっていくということが、清泉の際立った特長だと思います。

このページのトップに戻る