現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 教育
  4. 大学
  5. 大学学長インタビュー
  6. 記事

神奈川大学学長・中島三千男氏

2008年5月1日

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 このエントリをYahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真神奈川大学学長・中島三千男氏

 神奈川大学は今年5月に創立80周年を迎える。この節目の年に学長をつとめるのが中島三千男氏。今年で2年目となるが、20年後の100周年むけて、神奈川大学を日本の高等教育機関の中で確固たる地位を占めさせるために、その土台作りをしたいと意気込む。

■神奈川大学の伝統(強み)=教育力

 神奈川大学は教育者であり政治家でもあった米田吉盛先生によって1928年(昭和3)に創られた横浜学院に始まります。翌年、旧制の専門学校・横浜専門学校に昇格、1949年(昭和24)、戦後の学制改革により、神奈川大学となり、今日に至っています。 戦前には横浜には大学は一つもなく、旧制の専門学校がいくつかあるだけでした。こうした中で、横浜専門学校の特色は夜間(二部)を持っているということでした。当時、横浜には、昼間働く多くの若者たちがいました。米田先生は向学心をもちながらも昼間働かざるを得ない、そうした若者たちのために、夜間だけの横浜学院を立ち上げ、専門学校に昇格後も夜間(二部)の課程を重視しました。

 こうした、夜間(二部)の重視には実は、米田先生自身、決して恵まれた環境の中で育ったのではないという事情がありました。米田先生は、小学校を卒業後、すぐ京都に「丁稚奉公」に出て、さらに翌年には単身、台湾に渡り商店で働きました。そして、20歳になってから、日本に戻り、中央大学専門部法学科に入って勉強を始められたのは25歳になってからでした。米田先生が夜間(二部)を重視したこと、さらには給費生制度を創立当初の1933年(昭和8年)から取り入れたこと等は、先生自身の、体験があったのです。

 米田先生は、こうして昼間の学生に較べれば明らかにハンディのある夜間(二部)の学生に、昼間の学生に負けない力をつけさせるために、「教育は人なり」と優秀な教授陣を数多く招聘し、その熱心な教育力と学生自身の努力により、優秀な人材を夜間(二部)から数多く輩出し、今日の神奈川大学の基礎を築いたのです。

 このことをもう少し一般化して言えば、例え、様々な事情により、入学時の実力は劣っていても、入学してからの教授陣の教育力と本人の努力により、飛躍的に実力をつけることが出来るということです。私はこのことを「二十歳台の若者は無限の可能性を持つ」、「入学時の実力よりも、大学に入ってからの教授陣の教育力と本人の努力が一生を決める」と言っています。また、2006年に定めた「成長支援第一主義」という大学のコンセプトもこのことを含意しています。この教育力ということは今ではどの大学も重視しているところですが、神奈川大学の場合、それは頭の中から、付け刃的に生みだされたものではなく、創立者の自らの体験によって生み出され、長い伝統に裏付けられたものだということです。

■3年目を迎えたFYSとキャリア教育

 こうした、伝統のもとに神奈川大学は時代に適応した様々な改革を行ってきましたが、その近年における現れが2006年改革と言われるものです。この改革は人間科学部の新設、外国語学部国際文化交流学科の増設、また理学部総合理学プログラムの開設など、新しい教育組織の新増設とともに、教育内容の大きな改編を行いました。その目玉がファスト・イヤー・セミナー(FYS)とキャリア形成科目の導入です。

 FYSとは、初年次教育、あるいは導入教育とよばれるもので、大学に入学したばかりの1年次生に対して、ノートの取り方や本の読み方、図書館・情報センター等キャンパスの施設の利用に仕方、レポート・論文の書き方、討論・ディベートの仕方など大学で学ぶために必要なスキルや心構えなどを教えるものです。

 今日の進学率が50%を越える状況の中で、一寸極端な例ですが、大学に入るまできちんとした本を1冊も読んだことがないという学生さんも入ってきます。また、高校までの、「優しい仲良し」グループの中では、孤立したり、はじかれたりするのが怖いから、自分の意見をはっきりと主張する習慣・訓練を受けていない学生さんも数多くいるのです。これでは、学問はできません。FYSはこうした現実に対応するものです。

 もう一つの目玉はキャリア形成科目の導入です。これまで、キャリア教育は就職講座の一環として、正課外で行ってきましたが、それは残しつつも、キャリア形成科目を正課の一つとして1年次から3年次に組み込みました。まず、1年次では自己分析や評価を通じて自分の適正や自分らしさを見つめ、2年次から3年次の前期にかけては、社会や会社について学ぶとともに、様々な人間力を養い、3年次の夏にはインターンシップを行います。この、インターンシップには海外で学ぶインターンシップもあり、ドイツ、カナダ、中国で行われます。この科目はまだ、2年目が終わったばかりですが、学生から高い評価と満足度を得ています。

 このように、神奈川大学は(1)従来の学問に基づく授業科目=専門科目や教養・基礎科目といった科目に加え、(2)初年次・導入教育としてのFYS、(3)大学で学んだものを社会に生かす力を育むキャリア形成科目、この三つの性格の異なる授業科目を重層的に組み合わせて、入学から卒業までの学生の成長を支援しているのです。 

■ゼミの神大

 FYSやキャリア教育も重要ですが、言うまでもなく、大学教育の核は、学問に裏付けられた教養・基礎教育や専門教育です。なかでも、その集大成とも言うべきものが、文系のゼミナールや理系の卒業研究といわれるものです。創立者の米田吉盛先生は「大学教育は学問を通じて行う人間教育がとくに重要である」、「教育は人を造るにあり」ということをしばしば言われましたが、この人間教育、人を造る上で最も重視したのが教授を中心とした少人数のゼミや卒業研究でした。ここでは、二年〜三年間にわたって教授との濃密な師弟関係が形成され、学問研究だけではなく、人間形成にも大きな影響を受け、有為な人材が数多く輩出されました。こうして、「ゼミの神大」という社会的評価を受けてきたのです。

 ふり返ってみればゼミや卒業研究ほど大学にふさわしい教育システムはありません。研究テーマを決め、研究史を整理し、必要な資料を集めて、それを分析し、そして論述するという過程で、今日、人間力として重視されている、問題発見能力や問題解決能力、情報収集能力や分析・統合能力などが身につくほか、論文を完成させるまでの過程で何度か発表を行うため、そこでプレゼンテーション能力やディスカッション能力も身につく。さらに、指導教員や学生から厳しい批判を受けたり、ダメ出しを食らったりして、時には挫折を経験する、しかしそこからまた立ち直って論文を完成させる、こうした苦労や達成感を繰り返し経験することによって、いわゆる総合的な人間力が身につくのです。社会や企業が求めている力がつくのです。この意味で、ゼミナールや卒業研究は、FYS,キャリア形成科目、そして教養・基礎教育、専門教育といった大学教育の集約されたものであり、また集大成されたものでもあるのです。

 このようにゼミナールは本当に重要なのですが、近年は、残念ながら学生数の増大もあって、全学部・学科で必修にはなっていません。ですから、2〜3年後を目標にゼミの必修化をはかり、文字通り「ゼミに神大」を復活させたいと思います。

■最大の重点課題―「国際化」

 今後の課題はたくさんありますが、とくに強化したいものは、神奈川大学の「国際化」を強力に推進するということです。神奈川大学が所在する横浜は、特に戦前にあっては、神戸と並んで、国際港都として、外国の文化・物資が真っ先に入ってきたところでした。したがって、創立者の米田吉盛先生は、当時にあっては大変ユニークな貿易科という学科(今日の現代ビジネス学科)を設けるとともに、全学的に英語教育を重視し、ために「語学の神大」という社会的評価も受けてきました。この、創立時の伝統を、復活したいと思っています。

 たしかに神奈川大学では、海外への留学としては、スペインのサラマンカ大学など5カ国6大学と交換留学制度をもっています。また、アメリカなど5カ国、13大学に推薦語学研修制度をもっていますが、昨年度の実績で言えば、交換留学生は15名、推薦語学研修生は57名とまだまだ少ない状況です。派遣国・大学の拡大とともに、人数的には、少なくともこの数年の間に、この3倍の数にはしたいと考えています。なお、この他に外国語学部のスペイン語学科、中国語学科、経営学部の国際経営学科ではそれぞれ独自の語学研修制度をもっています。

 また、留学生の受け入れは、この数年、30名から50名で、全学で大学院を含め250人程度が在籍しています。圧倒的に中国からの留学生です。これも国籍の拡大とともに、人数の拡大が必要だと考えています。このためには、現地での試験や推薦制度の導入、また宿舎問題、日本語教育の充実、他方で英語での授業の増大など、整備しなければならない課題が多くありますが、この数年の内にそれらをクリアーしていきたいと考えています。

 また、在学生の語学とりわけ英語の強化は2006年度の教育内容の改編の一つでした。三つの方向で改革がなされました。一つは全学生にTOEIC・IP試験を入学時並びに1、2年の後期、都合3回受ける機会を与えるとともに、TOEIC演習を設けたこと、二つはネイティブ・スピーカーの講師が担当する必修英語科目の大幅に拡充したこと、さらに、自習環境整備として、いつでもネイティブ・スピーカーの先生方と自由に会話ができるイングリッシュ・ラウンジの開設と、Eラーニング・システムの導入を行いました。こうした方策により、「語学の神大」を復活・再生したいと考えています。

■平等主義から重点主義へ―神大の個性強化を目指す

 さて、読者のみなさんは神奈川大学と聞いて何をイメージするでしょうか? 答えに窮する方も少なくないのではないでしょうか。神奈川大学は文・理の7学部8研究科を持つ押しも押されぬ総合大学です。しかし、残念ながら外から見たとき、一言で表せるような特徴がないのも事実です。そこで私は、これまでの平等主義から重点主義に移行し、神大の個性を強化して知名度を高める努力をしたいと考えています。

 入学者の中には箱根駅伝で神大を知ったという学生も多くいます。これは大学の大きな財産ですが、スポーツだけではなく、研究・教育の面でも、重点的に支援することにより、これが神奈川大学と言えるものをいくつか作り出したいと考えています。例えば本学には日本常民文化研究所というのがありますが、これは世界的に知られた民俗学の研究所です。この研究所を母体に1993年に大学院歴史民俗資料学研究科が設置され、この二つの機関を核として、「人類文化研究のための非文字資料の体系化」というプロジェクトが文部科学省による世界的な研究・教育拠点をつくるための企画、「21世紀COEプログラム」に採択されました。現在、こうした成果を生かした歴史・民俗系の新学部を作るための検討を始めています。その他、工学部田島名誉教授のエマルション燃料の開発、荏本教授の地震防災マップの研究など、今日の国内外の環境問題や防災対策に大きく貢献する研究に対しても重点的に支援を行い、大学全体の社会的な知名度と評価を高めることを目指します。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内

[PR]注目情報

ここから広告です

広告終わり