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「卒業後3年新卒扱いに」の意味は 高祖敏明・上智学院理事長に聞く

2010年9月29日

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写真:こうそ・としあき 今回の提言をまとめた日本学術会議の「大学教育の分野別質保証のあり方検討委員会」副委員長。上智大などを経営する学校法人「上智学院」の理事長も務める。こうそ・としあき 今回の提言をまとめた日本学術会議の「大学教育の分野別質保証のあり方検討委員会」副委員長。上智大などを経営する学校法人「上智学院」の理事長も務める。

写真:川村隆・日本経団連副会長(日立製作所会長)川村隆・日本経団連副会長(日立製作所会長)

 「大学卒業後3年間は新卒扱いに」という政府の方針(※1)がにわかに注目を集めている。さきがけとなったのは、日本学術会議が先月出した同じ内容の提言だ。学者の代表機関が、企業の採用活動に踏み込む異例の提言をした背景や意味は何だったのか。提言にかかわった高祖敏明・上智学院理事長に、あらためて聞いた。

■人生のリスク 大卒時に集中は不健全

 ――「卒業後3年新卒扱い」提言の狙いは。

 そこばかり注目されるが、検討委(※2)の役割は、もっと広く社会における大学の役割を再検討し、高等教育の質向上について議論すること。しかしその前提として、現状ではいくら「教育の質」を言っても絵に描いた餅になりかねない、という問題意識があった。

 ご存じの通り、就職活動の早期化と長期化で、3年生以降は教育が成り立たなくなっている。専門教育を受けるべき最も重要な時期に、学生が能力を伸ばせない。しかも新卒採用主義(※3)のため、一度列車に乗り遅れると正規雇用の道が極端に狭まる。人生のリスクが大学卒業時に集中してしまっている。特定の世代に過度の負担を押しつけており、社会的にあまりに不健全。今の大学が直面している問題でまず改善すべき短期的課題として、異例とされながらも今回、企業の採用活動の問題に踏み込んだ。

 ――実効性をどう確保していきますか。

 日本経団連はかつて就職協定を取り決め、現在も倫理憲章(※4)を作っているが、外資系などは参加していない。こうした「規制的」措置だけでなく、既卒者を新卒枠と同じように採用対象にしている企業を公表するといった後押し措置もある。政府や経済団体との話し合いを一度ならず進め、実効性あるものにしたいと思っている。

■専門的資質 学べる大学教育こそ必要

 ――企業の対応は変わりますか。バブル経済崩壊後に非正規雇用が拡大した後も、大企業は正社員については新卒一括採用方式を続けてきました。

 戦後ずっと日本の会社は「大学は余計なことをしてくれるな」という発想だった。学生の「訓練可能性」を買い、自ら育てていた。特に文系では、実践的な職業能力は重視されず、自分たちが学んだことを生かせる採用や雇用のシステムになってこなかった。

 しかし、慢性的に労働力が不足していた高度成長期ならともかく、今のグローバル化した高度な知識集約型の産業に対応するためには、広い意味での専門的資質が必要になっている。

 それなのに新卒主義が続いているのは、高等教育での学習成果と職業上必要とされる能力の「接続」の問題がずっと放置されてきたからとも言える。企業側からすれば「大学がきちんと人材を育てていない」という思いもあるでしょう。

 だから、新卒主義を変えるためには、大学側も自己改革をしなければならない。それが今回、各学問分野ごとに「参照基準」(※5)を設けようという提言につながった。

 ――これも「大学と職業との接続」の問題の一環ですか。

 「卒業後3年新卒扱い」がまず取り組むべき短期的課題とすれば、参照基準は、より根本的に大学と社会の関係を変えていく中長期的な課題になる。

 いまの就職活動でのエントリーシートは完全に企業ベースだが、自分が大学教育で何を身につけたのか、学生が採用の場で自ら示せるように変わっていかなければ。さらには、学生を迎える企業側が教育に求めるものをまた大学にフィードバックしていく、そんな仕組みを作るのが我々の仕事だと思っている。

 ――大学のあり方だけでなく産業界や社会も含めた大きな改革ですね。

 今は採用の問題にしてもまず原則論で対立してしまう。でも柔軟性と多様性のあるキャリア社会の実現は、政府だけでも企業だけでも大学だけでもできない。革命的に一気に変えることはできなくとも、現実を踏まえた上で改良型で少しずつでも進めていきたい。

 日本経団連だけでなく、中小企業団体や連合、政府、そして何より学生を含めた話し合いの場を作っていきたい。(聞き手・石川智也)

■企業側「能力で採る」が基本 川村隆・経団連教育問題委員長

 「卒業後3年新卒扱い」について、経済界はどう受けとめているのか。日本経団連副会長で同教育問題委員長を務める川村隆・日立製作所会長に聞いた。

 経団連の教育問題委員会としては議論していない。仮に今後議論することがあったとしても、企業側としては最終的には「いい人なら採ります」というのが基本姿勢だ。現に多くの企業は、国籍や経歴にかかわらず能力のある人を採用している。若年未就職者の問題は深刻だが、「どうして採らないんだ」と採用側に言われても、「いい人なら採る」というのが企業側の共通認識だろう。

 ただ、産業界が大卒者に求める人材像のニーズと、実際に大学、特に文科系の学部を出てきた若者の能力や意欲、職業観にギャップがあるということはたびたび耳にする。

 そうした問題解決のため、教育問題委員会では今月、会員企業と地方別経済団体加盟企業を対象に「産業界の求める人材像と大学教育への期待に関するアンケート」を実施している。

 企業が求める人材の素質や能力、その育成に向けて大学や企業に求められる取り組み、大学生が在学中に身につけるべき職業意識や知識・能力などについて、産業界の立場から考えをとりまとめ、大学関係者との対話を進めていく方針だ。

 インターンシップ・プログラムやモデルとなるカリキュラムを産業界が協力して構築するなど、いろいろな連携の可能性は探っていきたい。(聞き手・三島あずさ)

     ◇

 キーワード

 ■※1「新卒者らの雇用に関する緊急対策」 菅直人首相直属の特命チームが「直ちに取り組む」として今月上旬にまとめた。「来春の就職内定率は過去最低になるおそれもある」と分析。卒業後3年間は新卒として応募できるよう制度改正し、正規雇用した事業主に奨励金を出す。ただ、実現すると、卒業後3年分の学生が新卒枠に殺到し、競争が激化するとの見方も。大学だけで就職支援を担うのにも限界があり、課題は残る。

 ■※2「大学教育の分野別質保証のあり方検討委員会」 大学教育の質低下が指摘される中、日本学術会議が文部科学省の依頼を受け、2008年6月に設置した。委員長は、北原和夫国際基督教大学教授。

 ■※3「新卒一括採用」 戦後日本では、同じ年代の学生を卒業時にまとめて採用する傾向が特に大企業で強まった。大学での職業教育よりも、入社後に人材を効率的に育てる日本的雇用システムの一環だった。厚生労働省の09〜10年の調査では、既卒者を新卒者と同じ採用枠で受け付けた企業は53・2%にとどまった。

 ■※4「日本経団連の倫理憲章」 新卒採用活動についての企業側の自主ルール。「卒業学年に達しない学生に面接などの選考活動を行うことを厳に慎む」など選考の早期開始の自粛を求めており、大企業を中心に約930社が賛同しているが、強制力はない。

 ■※5「参照基準」 学術会議の検討委がまとめ作業中の大学教育の質向上のための「物差し」。法学、物理学など約30分野で学生が最低限習得すべき知識や能力などの基準を作る。

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