大学もマニフェスト示せ 「早稲田のゴーン」関元副総長語る2007年05月29日 「全入時代」を迎えてますます激しくなる大学の生き残り競争。「戦略的に財源の確保を」「経営のムダをなくせ」――10年余にわたって早稲田大で財務の立て直しにかかわり、日産自動車のカルロス・ゴーン氏になぞらえて「早稲田のゴーン」とも呼ばれた関昭太郎・元副総長(77)は、大学に改革を急ぐよう訴える。
◆横並びやめ「財の独立」を ――少子化なのに、4年制の大学はこの5年間で約80校も増えました。 「天国か地獄かという競争になっている。優秀な学生を多く集める大学と、定員を満たせない大学との二極化だ。昨年度は私立大の4割が定員割れ。不足が続くと赤字に陥り、長引けば経営破綻(はたん)する。いまや『○○大学が危ないらしい』とささやくのが、大学関係者のあいさつ代わりだ」 ――大学のトップは戦々恐々でしょう。 「ところが驚くほど危機感がない、というのが私の印象だ。18歳人口がどんどん増えた良き時代の発想を転換できない理事長だったり、経営など考えたこともない学長だったり。毎年春には入学金や授業料としてまとまった現金が入るので、危機を乗り切ったような錯覚に陥るのだろう」 「少子化はずっと前から予測できたこと。企業がバブル崩壊後、汗と涙と血を流す覚悟で改革を断行したのに比べれば、努力が全く足りない。銀行が言うままに借金で施設を建て、資金が不足すれば学費を上げ、補助金が少ないと嘆く。無責任きわまりない」 ――大学は学部を再編し、入試を変え、就職支援に力を入れています。 「他大学と横並びの取り繕いになっていないか。たとえば学部再編。組織と名前を変えても教員が変わっていない。相変わらず自分たちが教えたいことだけを教え、社会のニーズにあった教育内容にしていない」 ――どうすれば? 「財の独立がなければ学の独立もない。まずは財務基盤を固めることだ。私立大は収入の8割を学費に頼るが、18歳人口は減り続ける。アメリカの主な大学のように3割程度に下げろとまでは言わないが、収入の構造を変えなければ。アメリカの大学は多額の寄付金を基金に積み、金融商品で運用する。日本の大学もそうした手法を戦略に位置づける必要がある」 ――徹底した経費削減で早大を立て直した関さんも、人件費には切り込めなかったとか。 「猛烈な抵抗にあった。収入が頭打ちになるだけに、人件費の増加を抑えないとやっていけなくなる。論文や本を書かなくても、学生の評価が低くても、教員の報酬が下がらないというのでは国際競争に負ける。教員の採用では任期を決め、業績と努力を報酬に反映させるような契約制度をもうけるべきだ」 ――今の大学には戦略がないと?。 「横並びでなく、大学ごとに知恵を絞って特色を出してほしい。企業が毎年、株主に経営計画を示すように、大学も学生の保護者、卒業生、寄付者らステークホルダー(利害関係者)に対し、どんな力量をもった人材を育てるのか、マニフェストを示さなければ」 「学生一人ひとりにどれだけ付加価値をつけて送り出せるかが勝負だ。戦略、計画、実行、評価という四つの手順を大切にするべきだ」 ――改革しない大学は生き残れない。 「努力しないところはつぶれても仕方がない。ただ、文部科学省にも大学の経営悪化の責任はある。規制緩和だといって甘い審査でどんどん新設を認可した。でも競争に敗れた大学の先行きまでは考えていない」 「大学側は、認可された以上、危機に陥れば(文科省に)支援してもらえると思ってしまう。規制緩和を進めるなら、認可制でなく登録制にして、大学の経営責任を厳しく問うべきだ」 ◆母校に大なた、経営再建 関さんはいま、東洋大の理事のかたわら、NPO法人「21世紀大学経営協会」(東京都千代田区)の副理事長も務める。シンポジウムなどを企画し、大学のありかたを省庁や大学、産業界の幹部に提言する。 早大を卒業後、山種証券(現SMBCフレンド証券)に入社。社長だった92〜93年はバブル崩壊直後で、役員の給与カットや子会社、社員の削減など様々なリストラに手をつけた。 社長退任後の94年、当時の奥島孝康・早大総長に請われ、06年まで母校の再建に取り組んだ。当時の早大には「経営」の観念がなく、長期・短期の借入金残高は94年度末で約340億円、土地信託がらみの分も含めると390億円と年間の学費収入の9割に達し、危機的な状況だった。 関さんは、毎年度の予算編成で経費の前年度比5%カットを掲げ、これを10年間続けた。清掃や警備の委託は競争入札とし、物品の購入も複数の会社から見積もりをとった。幹部の個室や公用車の廃止、印刷物の削減……。自ら校内を歩いて電気を消して回ったという。 遊休資産を売却する一方、「不動産の証券化」という企業並みの手法も導入。大学の研究成果を企業に説明して回り、寄付金集めにも奔走した。その結果、早大の借入金は05年度末で約140億円と、10年前の4割に。 「企業の原理をもちこむな」。教職員組合からは批判の集中砲火を浴びた。「人件費削減だけはほとんどできなかった」と振り返る。 全入時代 バックナンバー
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