現在位置:asahi.com>教育>大学>全入時代> 記事

全入時代

「キャンパス」は東京駅前 14校、高層ビルに同居 生き残りへ、社会人にPR

2007年06月05日

 JR東京駅前の一等地に「大学村」がお目見えした。3月に完成したばかりの高層ビル「サピアタワー」(35階、高さ166メートル)の中層階に京都大や関西学院大、北海道大など全国14大学の拠点が集まりつつある。社会人向け授業の教室に、就職を控えた在学生の支援拠点にと用途は様々。さて、その「キャンパスライフ」は――

写真京都の花街を取り上げた授業。様々な社会人学生が学ぶ=立命館東京キャンパス
写真  
地図  

 タワー8階の立命館東京キャンパスでは、同大文学部准教授の加藤政洋さんが文化講座「京の色彩(いろどり)」を講義していた。小説や映像を通して祇園、先斗町(ぽんとちょう)、上七軒(かみしちけん)など京都の花街を紹介する。大型連休直後の教室では、約50人の「学生」が熱心に耳を傾けていた。

 その一人、埼玉県草加市の椛島康夫さん(60)は経済学部の卒業生。1月に定年退職し、4月から妻と一緒に講座に通う。学生時代を過ごした京都がテーマだけに「私のために用意してくれたような講座。京都の奥深さを再発見している」。教室はかつての職場にも近く、通いやすい点がありがたい。

 東京駅に隣接するメリットは、教える側にとっても大きい。

◆改札から1分

 90分の授業時間が終わる午後3時、加藤さんが時計を気にしながら「夜は大阪で講義があるので、次の新幹線に乗らなければいけません。質問は事務局にお願いします」と謝りながら切り出すと、どっと笑いがおきた。ビルの玄関から最も近い東海道新幹線の改札まで1分足らず。加藤さんはばたばたと資料をかばんにしまい、あっという間に改札の向こうに消えた。

 少子化で18歳人口は減り続ける。大学が生き残るには社会人など幅広く学生を集める必要があり、企業やヒトが集中する東京ははずせない。東京キャンパスでは今年「金融と法」など4講座を開くが、京都文化の講座は売り物の一つ。テーマを変えながら通年で開いていく。

 埼玉大の東京ステーションカレッジは大学院だ。

 経済科学研究科の博士後期課程新設に合わせ、東京駅八重洲口のビルで授業を始めたのが00年で、この4月にタワーへ移った。授業は平日の午後6時半から。前期は29コマあり、うち12コマを証券マンや銀行員、財務、経済産業両省の官僚ら外部の講師が受け持つ。114人の大学院生も大半が社会人だ。

 21日夜の「金融基礎」。「その企業ガバナンス(統治)についての説明は一般的ではない」「株主代表訴訟の海外での状況は」。質問を飛ばすのは、講師よりも年上に見える院生だ。伊藤修教授は「昼間の学生とは大違いで、厳しいですよ。それぞれ経験を積んできた方たちですから」。

 大手銀行で20年余り働き、今は関連会社で部長を務める男性(57)は、バブル経済とは何だったのか、自分なりに整理したいと考えている。「実にエキサイティング。金融工学など私の学生時代にはなかった新しい考え方を学べます」

◆就職活動にも

 タワーを訪れるのは、授業を受ける学生ばかりではない。

 9階の関西大東京センター。学生が入ってくると、職員が「いらっしゃいませ」と声をかけ、すぐにお茶を出す。自由に利用できるホールにはテーブルといすがあり、インターネットにつながるパソコンを備える。荷物を預けられるコインロッカーも。就職活動のために上京してきた学生への支援の一環だ。夜行バスで早朝に着いた学生や、面接と面接の間の空き時間をもてあました学生が、くつろいだり情報収集したりして過ごす。

 石山博康センター長によると、同大では就職希望者の3割近くが東京で仕事に就く。支援拠点を設けたのは4年前だが、タワーに移ってスペースが3倍余りに広がった。就職活動がピークだった3〜5月には毎日10人ほどが訪れた。

 ホールで友人と話していた総合情報学部4年の女子学生(21)は、この日が2回目の利用だった。「関西の学生にとって東京での就職活動は不利。ここにいると気持ちがやすらぐし、すごく心強い」。IT関連など6社から内々定をもらったという。

 集客力向上に、JR東が誘致

 サピアタワーを所有するのはJR東日本だ。大学を集めるアイデアは、同社の社長、会長を務めた松田昌士相談役が出した。「サピア」はラテン語で知性を意味するサピエンスからとった。

 大学向けに8〜10階の3フロアを用意し、関連会社の担当者が各地の大学を回ったが、当初は門前払い続きだった。誘致の決め手となったのが「アカデミックディスカウント」と名付けた大学向けの値引き。率は非公表だが、関係者によると周辺の物件より4割程度安い例もあるという。収入が目減りしても、情報発信の拠点になれば東京駅自体の魅力も高められる、と考えたようだ。

 JR東日本の清野智社長は「トップセールスはしなかった」と話すが、同社の歴代社長の出身大学はすべて入居を決めた。タワーの4〜6階には最大500人が入れるホールのほか貸し会議室があり、27階から上は系列のホテル。大学を呼び水に相乗効果を狙う。

このページのトップに戻る