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全入時代

中退防ぐ「親身な指導」 学生の生活面も支援

2007年06月19日

 せっかく入った大学なのに、学ぶ意欲を失って中退する学生が少なくない。学生本人の人生にとっても、大学の経営という観点でも、見過ごせない問題だ。学習と生活の両面で、学生への支援体制を充実させる大学がここ数年、増えてきた。「親身な指導」の最前線を訪ねた。

写真授業ごとに、学生証のバーコードを読み取って出欠を管理する=青森県八戸市の八戸工業大で
写真学修支援センターでは、自習する学生の姿も=埼玉県宮代町の日本工業大で
表八戸工業大の出席率と進級率

◆「担任」が出欠を管理 八戸工業大

 授業のために教室へやってきた教員が、スーパーのレジ係が使うような端末を持っている。学生を1人ずつ順に回ったり、端末を学生の間で回したりして、学生証のバーコードを読み取っていく。授業が終わると、教員は事務室へ。端末をパソコンにつないでデータを転送すると、終えたばかりの授業の出欠一覧が「○×」で表れた。学生ごとに2週間分の出欠状況を一目で確認することもできる。

 八戸工業大(青森県八戸市)は、工学と感性デザインの2学部に7学科があり、学部の学生は約1700人。出席管理システムを本格的に採り入れたのは5年前で、クラスごとに置く「担任」制とともに学生サポートの両輪だ。

 担任はデータを細かくチェック。学生が3回続けて授業を休むと携帯電話などに連絡し、面談もする。原則として毎週水曜日の1コマ目には学科ごとに会議を開き、担任が「要注意」学生を報告する。情報を共有し、担任以外の教員も目配りするためだ。

 出欠を管理するのは、中退防止に有効だからだ。出席率が上がれば進級率も高まり、留年は減る=グラフ。留年者の4人に1人が中退している。「がんの早期発見と同じですよ」。担任として今春、初めて学生を送り出した信山克義講師(34)は話す。信山講師の指導を受け、この春卒業した相内健さん(22)は、大手電気設備会社に就職した。「2年の時は遊びとアルバイトで月に1、2回しか大学に行かなかった」。3年に進めなかったが、2学年分の単位をまとめて取れば「飛び進級」できる制度を使い、在学4年で卒業した。「親身になってくれたのでやってこられた」と振り返る。

 推薦入試に加え、面接や論文だけで合否を決めるAO(アドミッション・オフィス)入試など多様化が進み、「学生の質がバラバラ」(庄谷征美学長)との危機感は高まる。

 それでも中退率はここ10年近く、全国平均の3%前後で推移している。「迅速に対応することが重要。何とか踏みとどまっている」。藤田成隆・学長補佐は話す。

◆登校励ます電話も 日本工業大

 「もしもし。どうしてかかってきたか、わかる?」

 工学部の5学科に約4800人が学ぶ日本工業大(埼玉県宮代町)では、学修支援センターの職員が、授業に続けて欠席した一部の学生にこんな電話を入れる。

 登校する意欲はあるが、朝どうしても起きられない学生に励ましの電話をかけることも。休んだら欠席届を書くよう指導して「休む方が面倒だ」という気にさせる。授業に出てくるようになった学生は、生活のリズムを定着させるため、必ずセンターに立ち寄らせる。

 センターを置いたのは3年前。学力だけでなく生活面でも指導が必要な学生に対応することが目的だった。「そこまでやるのか」という疑問の声もあったが、柳沢章学長は「もはや、そういうスタンスは間違いだ」と断言する。

 電気電子工学科3年の男子学生(20)は、いじめを受けて中学時代から不登校ぎみだった。AO入試で入学したが、「基礎的な学力がついていない」と自己分析。センターができると足しげく通った。

 将来の目標は工業高校の教員。「センターがなければ、友人たちと出会うきっかけもなかった」

 先輩に助けられた経験を新入生に伝えようと、4月の2週目までセンターに顔を出した。が、今はあまり立ち寄らない。「自律に向けて通りすぎる場でいい」。センターの女性講師はそう話す。

 最近は、保護者からも「センターを訪ねてよいか」と連絡がある。センターの一員でもある田中隆治准教授は「まるで駆け込み寺。子どもにどう対処してよいのかわからないのでしょう」と分析する。

◆中退率は2.9%

 日本私立学校振興・共済事業団の調べでは、私立大550校の「中退率」は05年度で2.9%。5割強の293校が3%未満だったが、5%以上も2割強の117校あった。02年度(439校)は3.3%で、やや改善している。

 中退者の総数は約5万5500人で、男子が4分の3を占めた。各大学に中退の理由を複数回答で尋ねたところ、「進路変更」「経済的困窮」「就学意欲の低下」が上位だった。

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