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全入時代

入試「外注」 解決は難問

2007年07月17日

 文部科学省による全大学調査で、私立大の12%にあたる71校が入試問題作りを外注し、自らは全く作問しない「丸投げ」も18校あることがわかった。文科省は、事実上外注の中止を求める通知を出したが、関係者には「外注はなくならない」との声も。大学全入時代の学生確保策として入試の多様化が進み、現場では作問の負担が増す一方だけに、「解」を見つけるのは容易ではなさそうだ。

写真入試問題作りは大学教員にとって大きな負担だ

◆「多様化」で教員の負担増

 「(入試問題作りは)授業や研究をしながらの仕事。自ら手を挙げる人はいませんよ」。東洋大の横田章入試部長はこう話す。

 同大では毎年4月に各学部が担当の教員を選び、問題作りが始まる。平均点の目標や問題数などを決めて作成し、過去問との重複を調べ、12月中旬までに完成させる。担当すれば1科目につき数十万円の手当は出るが、人気がない。

 今春退官した藤野文雄名誉教授(71)は約30年間、英語の入試問題作りに携わった。

 1回に10種類ほど問題を作るため、試験に使えそうな文章を書店や図書館で見つけては手帳に控えた。ここ数年は英語作問チーム約20人のまとめ役だったが、「作問のために教員になったのではない」といった反発をなだめるのに苦労した。「教科によっては『外注したい』という意見も出た。でも、大学の教育は入試から始まっていると考え、自前で作ることを貫いてきた」と振り返る。

 国立大で国語の入試問題作りにかかわる教授は、最大の難関は問題文探しだと言う。現代文の場合、約5人の教員が書店で何日も新刊本などを探し、「まるで本屋で暮らすよう」。自費で何冊も購入する。

 各自が最良と考える文章を持ち寄り、問題文を決める。ほどよい長さで話が完結している▽差別用語がない▽論旨が偏っていない、などが条件だ。いい文章だと思いつつ、既に出題されていてあきらめたことも。

 「どんな学生に入ってほしいかを決めるのは、最も大切なこと。問題作りは自前でやるべきだ」と主張するが、「大学の上層部が重要性を認識せず、担当者の努力を評価していない」と不満を漏らす。

◆請負先は予備校

 問題の作成を請け負う一大勢力は予備校だ。ある受験関係者は「(問題漏洩(ろうえい)の恐れなど)リスクが高い割に利益は少ないが、大学との関係を維持するための仕事」と解説する。ただ、大手でも姿勢は異なる。

 受注を最初に表明したのは河合塾(名古屋市)で、00年に作問事業を始めた。「高校の学習範囲を逸脱するなど悪問が目立つようになったので、一石を投じたかった」という。

 毎年数十校分を請け負っていたが、05年秋、突然中止を宣言した。「(予備校で授業をする)講師が作問することもある。問題が起きて受験生を混乱させる前にやめた」

 駿台予備学校(東京)は一切請け負わない。系列の高校や大学を持ち、受験生に疑念を持たせかねないと考えての対応だ。

 一方、代々木ゼミナール(東京)は、現在も「二けた」の大学の作問を請け負う。依頼は増える傾向にあり、手が回らないため断るケースも多い。入試情報センターの坂口幸世本部長は「講師と作題者を完全に分け、どの大学の分なのかも秘密。最大限注意を払っている」と強調する。

◆文科省「中止を」

 文科省は外注問題について、大学への通知で「慎重な対応」を求めた。担当者は「大学の自主性を尊重した表現にしたが、自力で作ってほしい、という国の考えを伝えたつもり」と話す。「入試の機密性や中立性の確保の観点から、外注は好ましくない」とする。

 ところが、関係者の多くは「外注中止命令」とは受け取っていない。

 ある大学の入試担当者は「文科省は外注の多さに驚き、これ以上広がることを懸念したのだろう」。予備校の担当者は「外注が減る理由はない。今後も増えるだろう」と見る。

 こうした「強気」の背景には、当の文科省側がかつて示した見解がある。00年、文部相(当時)の諮問機関だった大学審議会は、入試問題作りで外部の専門家らの協力を得ることを「検討に値する」との答申を出した。関係者はこれを「外注容認」ととらえた。

 今回の通知への反応が鈍いことについて、文科省の担当者は不快感を隠さず、「自力で作るよう改めたか、いずれチェックしたい」と話す。外注問題は、今後も曲折がありそうだ。

 〈荒井克弘・東北大副学長の話〉 入試は、大学が責任をもって教育できる学生を選ぶ手段だ。試験問題はその目的に沿って十分な妥当性、信頼性がなければいけない。そうした観点から問題をチェックできる機関がない以上、問題の作成を外注すれば、大学と学生のミスマッチが起きる危険性が大きい。

◆過去問共有で70大学が連携

 過去問をお互いに利用しあおうという大学間のネットワークが広がりを見せている。岐阜大を中心とする17の国公私立大が昨年10月に「入試過去問題活用宣言」をまとめ、全国の約400大学に趣意書を送ったところ、53大学が参加の意思を表して計70大学になった。08年度入試からの利用を予定している。

 「宣言」の狙いは、過去問を共有財産と位置づけ、作問にかける時間や労力を節約すること。過去問をそのまま使っても一部変えてもよい▽過去問を使うことを入試要項などで事前に公表する、などの原則を掲げた。

 「難問奇問が減り、良問が増えるメリットが期待できる」と、とりまとめ役の岐阜大は説明する。佐々木嘉三副学長は「思いのほか多くの大学が参加を表明してくれた。入試問題作成にかかる労力の節減が共通の課題だったのだと思う。最終的には参加大学を100〜200校にしたい」と話す。

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