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〈学長力〉対話を軸に全人教育 国際基督教大学 鈴木典比古学長

2008年12月9日

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写真東京都三鷹市のICU、高波淳撮影

 トップに迫る「学長力」。今回は国際基督教大(ICU)の鈴木典比古学長だ。独自の教養教育(リベラルアーツ教育)を掲げてきたICUは今年、文系、理系を入学してから決めるという改革をした。狙いはどこにあるのか。さらに真のリベラルアーツなどについて聞いた。

◆理・文系の選択 2年終了時に

 ――今年度から、新入生を理系、文系も含めて特定の学科などに所属させず、2年次の終わりに所属を決めるという新制度を導入しました。

 「これまでは教養学部のもとに人文科学、理学、語学など六つの学科があり、受験生は第1、第2志望の学科を選び、合格時に所属学科が決まる仕組みでした。新しい制度は学科を廃止して文学、経済学、物理学など31の専修分野に再編。学生は様々な分野の科目を2年間学んだ後、自分に合った専修分野を決めることになります」

 ――狙いは。

 「『決めてから入る』システムでは、学問分野の実態を十分理解せずにイメージで選んでしまう。『入ってから決める』ことによって、納得したうえで責任ある選択を促したい。創立以来最大の改革なので学内には慎重論もあったが、ICUが掲げるリベラルアーツ教育を徹底した結果、こういう形が最良だと考えたわけです」

 ――早稲田大、上智大などが同じような学部を作ったこともあって、全体の志願者は減少傾向にありました。対応策という意味もありますか。

 「それらは懸念材料ではあったが、主な要因ではない。あくまでも理想を求めての改革で、高校や受験界、父母のみなさんからも歓迎されました。1年目の今年は志願者数こそ微増でしたが、ぜひICUで勉強したいという学生がたくさん入ってくれた。新制度を入学の決め手に挙げる人も多く、改革は一定の成功を収めたと考えています」

◆相互批評通じ人間力鍛える

 ――掲げているリベラルアーツ教育とは、どういうものなのでしょうか。

 「一言で言えば、全人教育ということ。『自分で考え、しっかりと自信を持って世界的な場で行動できる人間を養成する』ということです。そのために、学び方は対話中心でやっています。学生には自分で調べ、質問し、授業に参加することを求める。『広く浅く』ではなく『広く深く』で、専門教育が弱いというのは誤解です」

 ――直訳すれば、日本の大学にもある教養教育になりますが、違いは。

 「リベラルアーツ教育は考え方を身につけるのが基本だが、日本の教養教育は総花的な勉強というイメージが強い。リベラルアーツは相手との相互批評的な対話を通じて人間力を鍛えるので、社会での仕事でも必要なものです。だから、かつて日本の大学で教養教育は現実社会に対応できないから不要とされたのは間違いだったのです」

 ――様々な調査で、学生の満足度が高い大学として知られています。

 「決して甘やかして満足させているわけではありません。図書館では午後10時の閉館まで多くの学生が勉強しているし、1人当たりの貸出数も全国トップクラス。ヘトヘトになるまで勉強したという、いい意味の満足なのではないでしょうか」

 ――一方で、早慶などと比べると知名度はいま一つですね。

 「いま一つどころか、いま二つくらい。『知る人ぞ知る』というところはあります。ただ有名になればいいというものではないが、改善策は考えていきたい。今回の改革がかなりインパクトを与えたようで、地方の高校にもICUの存在がかなり浸透しているのを感じます」

 ――他の有力私立大と比べて3割ほど高い学費もネックになっているのではないですか。

 「少人数で密度の濃い教育を維持するための金額で、決して高くはない。さらに、ICUに入りたい優秀な学生が学費を理由にあきらめることがないよう充実した奨学金制度があります。とくに今年度から始めた新しい奨学金は、同窓会の寄付によって4年間、毎年100万円ずつ支給するもので、実質的な負担は国立大より低くなります」

◆英語での講義 8年後45%に

 ――ICUでは留学生を含む全学生が同じカリキュラムで学んでいますが、国が進める「留学生30万人計画」をどうみますか。

 「21世紀の多文化社会では日本が日本だけで閉じこもっているわけにはいかない。だから、必要な計画だと思う。ただ、留学生を増やすには大学教育の質と寮などの充実が不可欠です。現在、世界に通用する教育を実施している日本の大学がどのくらいあるかを考えると、数合わせは別にして、30万人も受け入れることはできないのではないか」

 ――「授業は英語で」を売り物にする大学や学部も増えるなかで、日本語と英語の両方を公用語にする「バイリンガリズム」を掲げています。

 「世界共通語としての英語を身につけることは重要ですが、英語圏ではないところで、すべて英語にする意味があるでしょうか。日本にある大学だということをちゃんと意識して、日本に足をつけたうえで世界で活躍する人材を育てていきたい。今は『日本語7割、英語3割』ですが、8年後に英語での開講科目を45%まで増やす予定です」

 ――経営学者として、大学経営をどうみていますか。

 「大学の経営にはパッション(情熱)、ペイシェンス(忍耐)、パースペクティブ(見通し)、プランニング(立案)、パーソナリティー(個性)という五つのPが必要です。会社の経営より、はるかに難しいと思いますね」(杉本潔)

   ◇

【最近の主な出来事】

01年4月 学外者が心の相談を受けられる高等臨床心理学研究所を開設

03年   「『平和・安全・共生』研究教育の形成と展開」が国の21世紀COE(卓越した拠点)プログラムに選ばれる

04年4月 一橋大などとともに欧州連合(EU)研究の拠点となる

08年4月 学科廃止などの改革を実施

   ◇

〈プロフィール〉 栃木県生まれ。専門は経営学。一橋大大学院修士課程修了。米インディアナ大経営学博士。ワシントン州立大やイリノイ大の助教授などをへて90年からICU教授。00年に副学長、04年から学長。63歳。

   ◇

◆記者からひとこと

 今回の改革では執行部案が否決される一幕もあったが、「身構えず気さくな人柄で巧みにすり抜けた。彼でなければうまくいかなかっただろう」(同僚教授)。広いキャンパスを自転車で走り回って調整型のリーダーシップを発揮しているようだ。

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