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〈学長力〉学生の価値 高める 金沢工業大学 石川憲一学長

2008年12月30日

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写真「大学は、学生が主役」と語る石川学長=石川県野々市町の金沢工業大・夢考房、大西写す

 少子化などで特に地方の大学の苦境が伝えられる中、北陸のある私立大の奮闘ぶりが注目を集めている。石川県野々市町の金沢工業大。学生を「育てる」ことに定評がある同大には、全国から学生が集まり、約7割が県外出身。他大学の学長らの評価も高い。大学改革にかける思いを、石川憲一学長に聞いた。(大西史晃)

◆卒業時の能力 日本一広げる

 ――目標にしている「教育付加価値日本一」の大学とは。

 「学生の入学時と卒業時の能力の差を、日本の大学で最も広げようということです。入学式の翌週に行う学長講話では、全部で1600〜1700人の新入生に、教育付加価値日本一に込めた思いを伝えます。『鉄は熱いうちに打てということわざがある。諸君の付加価値を上げたいから、それを理解して一緒にやってくれないか』と」

 ――日本一になるため、どのようなことを。

 「大学は高等教育機関であり、高等研究機関ではない。教員には教育を主体にしようと言ってきました。主役である学生が自らを鍛え上げて成長できる場をつくろうと。そのため、学習支援を行う数理工教育センターや、24時間365日オープンの自習室などを開設しました」

 「教員は学習支援計画をつくり、毎回の授業に必要な課題などを、学生に与えます。学生は『どうしてこんなに忙しい大学なのですか』と聞くので、私は『諸君の付加価値を日本一にしたいからだ』と答えています」

 ――学習支援のための数理工教育センターとは初年次教育の場ですか。

 「その一環です。今は高校までの教育が多様化し、数学や物理、化学を十分に勉強してきた学生ばかりではない。しかし、工学系はそれが基礎。そこで、自分の力に合わせて個別に指導を受けられる場として00年につくりました。教員には個々の研究室からセンターのオープンスペースに移動してもらい、質問に即応できる態勢を取っています。今は約30人の教員がいる。07年からは携帯電話を利用し、わからない部分を写して送信できる『おタスケケータイ』も始めました」

◆自ら提案して 自由に使う場

 ――学生が主体的にものづくりにかかわる「夢考房」の取り組みも有名ですね。

 「物を作りたい学生が自由に使える空間として93年に開設しました。工作機械などがあり、部品もそろっています。年間約320日、平日は午後9時まで開いており、年間の利用者は延べ10万人に上ります」

 「『夢考房プロジェクト』という、もう一つの機能もあります。学生が夢考房を使ってやりたいプロジェクトを教職員にプレゼンテーションし、合格すると予算もつく。今は14のプロジェクトが活動しています。学年も学科も違う学生が一つの目標に向かって協力することが、人間形成や教育付加価値を上げる駆動力になっています。中には『夢考房で活躍したいから金沢工業大を選んだ』と言ってくれる学生もいます」

 ――教育に力を入れるきっかけの一つに、米国視察の経験があったとか。

 「90年代初め、『教育はある程度満足できるところまできた』と考え、今度は研究面をと米国に視察団を出しました。しかし、研究ができる大学は教育をしっかりやっている。そこで、あらためて、本当に教育をしっかりやってきたのかと反省し、教育改革の検討委員会がつくられました。私も入り、米国の視察や2年で100回を超す議論をしました。4回の答申を出し、それを基に95年から本格的な教育改革を始めました」

 ――各種の大学ランキングでも、他大学の学長らから高い評価を得ています。

 「うれしい半面緊張します。ただ、教育に比べて研究面の評価が十分でない。何とかしようと今年度から、学長と研究部長との兼任を始めました。今は付置研究所などの設置順に2カ月に1度、何をやっているか報告してもらっている。研究は、もっと社会のニーズをとらえるよう方向転換していくべきだと思います。そのためには産学連携が大事なので、11月に企業向けのフォーラムを開きました。いわば企業のためのオープンキャンパスです」

◆地域と連携に 地方大の意義

 ――地方の私立大は経営が厳しくなっています。金沢工業大のように健闘するには何が必要でしょうか。

 「この大学で勉強したいという気持ちを起こしてもらうための広報は重要。また、地域との連携も必要です。私たちは、移転前の石川県庁があった金沢市の中心部ににぎわいを取り戻そうと、周辺をライトアップする『月見光路』という取り組みを始めました。光に関する授業をし、その知識を生かして学生が進める。知識を知恵に転換できる場となります。自分にも地域にも素晴らしい成果があると思うし、それで地域が活性化すれば、地方の大学の存在意義につながると思います」

 ――大学生に、ここまで手を焼いてあげる必要があるのかという声もありますが。

 「私が学生の頃は、放任というか、いろいろなことを自分で行っていた。しかし、いまや高校生の五十数%が大学あるいは短大に行く時代。大学はすでに大衆化してしまった。昔の大学生と同じ視点で見ると間違ってしまう。私たちは入学を許可した以上、全面的に責任を持つわけです。学生が目標を持って行動する限り、支援したいし、きめ細かい指導をしていきたいと思います」

   ◇

【近年の主な出来事】

93年7月 学生がものづくりに取り組む場として「夢考房」を開設

95年4月 本格的な教育改革をスタート

04年4月 東京虎ノ門キャンパスを開設

07年6月 57年に北陸電波学校としてスタートして以来、創立50周年を迎える

08年4月 バイオ・化学部を開設。4学部14学科に改組

   ◇

〈プロフィール〉 静岡県生まれ。金沢大大学院修士課程修了。金沢工業大では教授や教務部長を経て、前学長の「指名」で94年に5代目学長に就任した。専門は精密工学など。日本刀の科学的研究が趣味で、著書もある。

◆記者からひとこと

 一つの質問に、時には10分以上も自身の思いを語る。学長になって14年たつが、大学改革にかける意欲、熱意をひしひしと感じた。取材前、構内を散歩していると、朝早い時間にもかかわらず、夢考房には多くの学生の姿があった。学長らの思いが、学生のやる気にもつながっているのかもしれない。

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