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〈学長力〉秋田発 世界標準に 国際教養大 中嶋嶺雄学長

2009年1月27日

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写真昨年4月に完成した秋田杉を使った図書館に立つ中嶋嶺雄・国際教養大学学長=堀英治撮影

 秋田市中心部から十数キロ。空港に近く、民家もまばらな地区に、秋田県が出資する公立大学法人・国際教養大はある。授業はすべて英語、1年間の留学義務などのカリキュラムが特長だ。米国の大学で教えた経験もある中嶋嶺雄学長は、この地で「国際社会で活躍できる人材を育てたい」という。(葉山梢)

◆留学義務化 就職に有効

 ――なぜ、秋田の大学の学長に?

 「日本の大学はこのままでいいのか、同じような大学をたくさん作っても本当の教育をやってないじゃないかという危機感がありました。作るなら今の日本にない大学、国際標準の大学を作りたい。ずっと主張していたところ、秋田に国際系大学を作りたいという寺田典城知事から強い要請を受け、引き受けました」

 「少数精鋭できちんと勉強してもらうかわりに、大学も面倒をみる。教員はほとんどが国際公募で、当初20人の募集に400人以上来ました。その中の60人に面接し模擬授業をやってもらったのが非常によかった。経歴だけ見ると、ケンブリッジやオックスフォードで博士号を取った人もいたが、研究と教育はかなり違う。若い人に教養を教えられるかどうかを見ました」

 ――学生全員に1年間の留学を義務づけていますね。

 「今の時代は外国語のコミュニケーション能力をきちんと身につけなければならない。そこで、英語教育の仕組みを根本から変えたんです。すべての授業を英語で行うというのが一つと、留学を義務づけ、しかも向こうの大学で1年分の単位をとる。そのためTOEFL550点をクリアしてから留学させます」

 「留学は苦労も多いようだが、それだけによく勉強して一回りも二回りも人間が大きくなって帰ってくる。就職活動の時期が終わってから帰国する人もいるけど、企業も実力をみて採用してくれるので、留学経験は大いに役立っていると思いますね」

 ――講義に付いていけない学生もいるのでは。

 「入学早々EAP(学術英語)を集中教育します。卒業はかなり厳格にしていますが、TOEFL550点の壁がなかなか難しく、留学できずに卒業の見込みが立たない一期生が3人いました。一人ひとり、学長室に呼んで、転学の可能性も含めアドバイスしています」

 ――高校の学習指導要領改訂で、英語の授業は英語で行うようになりましたね。

 「遅きに失しましたが、おかげで、高度な英語教員を養成する本学の専門職大学院への期待が高まっています」

 ――海外からの留学生も100人以上いるとか。

 「日本の大学は中国、韓国、台湾からの留学生が多い。うちは欧米からも幅広く来ている。授業は英語だし、欧米の大学と同じく、半年で授業が完結する『セメスター制』なので来やすいんですね。現在、世界のトップクラスの83大学と提携を結び、授業料が相互免除されるのも学生には魅力です」

◆個性を尊重「暫定入学」

 ――入試が多様ですね。

 「AO・高校生留学、推薦、A・B・C日程、9月入学と6種類の入試がある。全国から優秀な学生が受験してくれています。入試は1点を競うわけです。だから、合格ラインより下だけど、英語はすごくいいとか、文系なのに数学は抜群という人たちを1年間、正規の学生ではなく科目等履修生で入れる『暫定入学』もやっています。平均以上の成績をとった場合には2年目に正規の学生となる。そこで入学した学生は今まで誰も脱落していない」

 「これを普通の大学の教授会でやろうと思ってもおそらくできないでしょう。うちの場合、すぐやろうと、学長のリーダーシップで決めた。米国のAO入試は、学校に行って優秀な生徒に目を付ける。そんな本当のAOを少なくとも秋田県では今年から始めます。各高校のトップクラスの生徒を推薦してもらい、時々、大学に来てもらって1年くらいかけて選考する」

 ――独自の取り組みを始めやすい環境なのでしょうか。

 「意思決定のシステムが違う。教員職員は同格で二本柱なんです。普通、大学は教員が上にいて職員はその下という二重構造。うちは職員のレベルが高く、意思決定に事務局長や職員も加わる。東京外国語大の学長の時は、教授会の時間ばかりが長くて、物事が決められなかった。学長のリーダーシップで、効率のいい大学経営ができるように変えました。教授会は学期の始めと終わりに1時間やるだけです」

 ――教職員に3年の任期制を採っています。落ち着いて働けないという声はありませんか。

 「いい意味で緊張感があります。最初の3年で何人かやめざるをえなかったが、明らかに新しく応募してきた人の方が優秀というケースがあった。今はうまくいっている。9年まで3回更新できるが、その先が心配な人もいるでしょう。近く米国型のテニュア制(実績を積んだ教職員を終身雇用する制度)も導入することを考えている」

 ――国際標準の大学を秋田でつくる意味は何でしょう。

 「本来は東京でやって当たり前。だが秋田のような地方でやる意味は大きい。国際的なやりとりはインターネットでできる。移動にしても、秋田―ソウル便があるので、サンフランシスコでもウランバートルでもソウル経由で行った方が便利です。米国なんか、都市から1時間くらい飛ぶと大学町があるじゃない。まさにここですよ。一番心配だったのが就職ですが、昨年と今年の実績をみて、心配はなくなった。マイナス面は全くありません」

    ◇

【近年の主な出来事】

04年4月 公立大学法人として秋田市郊外に開学。定員100人

06年4月 定員を130人に増やす

08年3月 初の卒業生64人を出す。卒業生のうち83%が就職、17%が進学

08年4月 定員を150人に増員

08年9月 コミュニケーション分野の専門職大学院「グローバル・コミュニケーション実践研究科」(9月入学)を開設

    ◇

 長野県生まれ。東京外国語大中国科卒業。東京大大学院社会学研究科修了。専門は国際社会学。東京外国語大学長などを経て、国際教養大の開学とともに学長に就任。文部科学省の諮問機関「中央教育審議会」や、政府の教育再生会議の委員も務めた。72歳。

◆記者からひとこと

 学生の多くが大学の敷地内の寮やアパートに住む。24時間オープンの図書館など、学問に集中する環境は整っている。「従来の日本にない大学を作ろう」という、学長の徹底ぶりを感じる。都心の大学とはひと味もふた味も違う学生が育っていくのだろう。

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