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〈学長力〉失敗恐れぬ熱意導く 京都産業大 坂井東洋男学長

2009年2月17日

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写真正社員とフリーターの生涯賃金を比べた模造紙幣の山。「実感しやすいでしょう」と坂井東洋男学長=京都市北区、伊ケ崎忍撮影

 京都産業大が活気づいている。益川敏英教授がノーベル物理学賞をとり、一般入試の志願者は前年より3割増えた。その益川さんは終身教授になり、科学のロマンを伝える「益川塾」を立ち上げる。学長室のある本館の隣では天文台の建設も始まった。(市原研吾)

◆科学にロマン「益川塾」開設

 ――なぜ天文台を。

 「行き詰まってウジウジしている時、空、宇宙を眺め、『悩みなんて大したことないじゃないか』と思ってほしい。天体観測を進めるのはもちろんですが、こんな狙いもあるんです」

 「だから、遠く離れたところにではなく、キャンパスに置くことに意味がある。地盤の一番適したポイントは本館があるところというから、それならと、本館の3分の1を壊しました。口径1.3メートルもある巨大な望遠鏡を設けます。肉眼の約5万倍は見えます。奇をてらったのではなく、理念通りです。京産大の創設者は天文学者ですから。完成は来年3月。市民への開放も考えていきます」

 ――ノーベル賞受賞で大学に変化はありますか。

 「一般入試の志願者は、前年の3割増し。中でも益川さんのいる理学部は前年の2倍です。ここ数年の学部・学科の新設、入試制度の改革の積み重ねもあると思いますが、それにしても効果絶大です」

 「益川さんは実にうちらしい先生。ちんまりしていない。英語をしゃべれないという弱みをさらけ出しても、自身がやってきたことへの自信は揺らがず堂々としている。学生にもそうあってほしい。だから、『益川塾』をつくり、若手研究者の育成に力を注ぎ、科学へのロマンが広がるよう講演もしてもらいます。塾開きは今春、本格スタートは来春です」

 ――小さくまとまらない学生を育てる仕掛けは。

 「益川さんが言うように、偏差値からの脱却が必要です。社会に出て役立つのは不屈の精神力。いくつもの壁をいかに乗り越えていけるか。そのためには若いうちにたくさんチャレンジして、たくさん失敗する経験を積んでほしい。今年度から、果敢に挑んで失敗した学生を奨励する試み『グッド・トライ部門』を始めました。『懸命な挑戦ゆえの見事な失敗』と認めたものを表彰しています」

 ――実際に、見事な失敗に選ばれたケースは。

 「優秀賞の一つに、自転車で300キロを走り抜こうとして挫折した体験がありました。夏休みに京都から、実家の富山まで、自転車で時速20キロ、15時間かけて走る計画だったが、琵琶湖沿いでパンク。近くの駅から電車に積んで移動、福井で降りて、また自転車にまたがったが、父親が車で迎えに来て旅は終わったという内容です」

 「授業の方では、06年秋から『キャリア・Re‐デザインI』という全学部の学生が受講できる科目を設けました。進路設計ができていない学生に、大学で何を学ぶのかといった土台作りをしてもらいます。失敗しても、ものおじせず、明るい『京産カラー』につながれば、と思っています」

◆意思疎通深め就活を後押し

 ――そのカラーですが、就職先でどう評価されていますか。

 「京都府知事にも言われたことがあります。京産出身は明るく、めげないと。人を笑わせ、周囲を和ませるサービス精神がある。全上場会社版の『役員四季報』(東洋経済新報社)をもとに算出すると、役員に就く人数の伸び率は長年トップクラスです。明るさと挑戦の気風が受けている結果でしょう」

 ――全体の就職状況はどうですか。

 「うちは就職に強いとも言われています。大学が学生に薦める1千社の企業のうち、進路センターの担当者が600社近くを回り、生きた情報を届けます。内定をもらった4回生が後輩の就職アドバイザーになることも10年近く前、全国の大学に先駆けて始めました。毎年1月には、就活祭を開き、しんどい就職活動を前向きにとらえられるようにしています」

 「何よりの自慢は、学生と大学の意思疎通ができていることです。就職状況が確認できなかった学生は、07年度はわずか1人。就職希望者に対する就職率は97%、全卒業生に対する就職率だと82.6%です。全国平均を上回っていますが、一方で、大学院への進学率が低いことは、うちの弱みでもあります」

 ――進路センターに学長のイラスト入りの模造紙幣の束がありますね。

 「京産らしい遊び心です。紙幣と同じサイズ、同じ重さ。学生団体のデザイン部がつくりました。就活を考えるうえで、正社員とフリーターの生涯賃金を目でみえる形にしたのです。目でみて、触る。差は歴然です。就職氷河期のさなか、世の中のフリーター率が2割を超え、それを心配したことも背景にあります」

◆時代見据えた理系の新学部

 ――新学部の構想はありますか。

 「来春、総合生命科学部を設ける計画です。バイオ、感染症、食の安全といった時代に合ったテーマを学べる理系の看板学部にしたい。実社会と連携して即戦力を養う。それが大学の使命だと考えています。この学部の3学科の予定定員はそれぞれ35〜45人で小規模です。うちになかった分野なので、新たに40人ほどの教員を招くつもりです。採算面では厳しいが、どうしても必要な分野だし、3年がかりで構想を練ってきました」

 「06年秋には鳥インフルエンザ研究センターを設けました。04年に京都の養鶏場で感染が発覚した時、鳥取大の大槻公一教授がマスコミに出ずっぱりでした。それだけ専門家が少ないということ。この状態を打開しようと、センターを発足させたわけです。大槻教授が定年間近と聞き、センター長就任を打診し、了解してもらいました」

    ◇

05年4月 創立40周年

06年10月 鳥インフルエンザ研究センターを開設

07年4月 付属中学校・高校が開校

08年4月 コンピュータ理工学部を新設

外国語学部に国際関係学科を増設

08年10月 益川敏英教授がノーベル物理学賞に選ばれる

09年4月 益川塾を設立

    ◇

 京都市生まれ。神戸市外国語大を卒業後、京都大大学院文学研究科修士課程を修了。専門は中国近代文学。02年10月に学長に就き、現在は3期目。趣味はラグビー観戦と、井上陽水の音楽を聴くこと。65歳。

◆記者からひとこと

 熱く語る学長の心配は、学生の自信のなさでした。「錯覚でも、うぬぼれでもいいから自信を持て。謙虚なだけではダメだ」。大学のサイトに「今週の学長のことば」というコーナーがあります。厳しい就職活動のさなか、その言葉に刺激され、気合を入れ直す学生もいるそうです。

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