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〈学長力〉産業人、組織に「喝」 芝浦工大学長 柘植綾夫学長

2009年2月24日

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写真「産業界は、大学と同じ目線からアドバイスを」と話す柘植学長=東京都江東区、松本敏之撮影

 芝浦工業大の柘植綾夫学長は、産業界から転じた、日本では珍しい学長だ。大学と企業の違いをどのように感じているのか、さらに大学と産業界との関係、「工学離れ」などについて聞いた。(杉本潔)

◆今の工学教育 危機を感じた

 ――産業界から大学の学長に転じた理由は。

 「企業でものづくりにたずさわったり、政府の総合科学技術会議で科学技術行政にかかわったりするうち、日本の工学教育の現状に危機感を感じるようになった。産業構造がキャッチアップ(追いつき)型からフロントランナー型に変わり、産業界が白紙に絵を描けるような人材を求めているのに、大学の方はそれに対応できていない。さらに工学本来の姿である社会の役に立つという発想も弱くなってきている。そんな時に依頼があったので引き受けた」

 ――学長になって「企業と違う」と感じていることは。

 「企業が最も重視している顧客や製品への責任は、大学では学生の質の保証にあたるが、それが企業に比べるとまだまだ甘い。さらに企業では個人プレーと組織プレーがうまく組み合わさって組織力を発揮しているが、大学では個人プレーが多い。学術面はそれでいいが、運営や経営、教育ではもっと組織プレーを活用すべきだ」

 ――具体的に驚いたことは。

 「まず、会議の開催通知に開始時間だけ書いてあって終了時間が書いていなかったこと。貴重な時間を割いて出席してくれているのに『これは何だ』と思って、私が主催する会議には終了時間も明記して10分以上は延ばさないようにした。そして会議の最後に、決まったこと、決まらなかったことをはっきり整理するようにした。いずれも、企業では当たり前のことだ」

 「大学経営を、学術論争のように延々と議論するのにも驚いた。学術ではちょっとの違いにこだわってベストを目指すのが大事だが、経営というのは限られた時間、資源、資金の中で、その場に応じてベターなものを選ばなければならない。経営と学術は別だと言い続けている」

◆産学間の理解まだまだ不足

 ――最近は産業界が大学に、いろいろ注文をつけています。

 「私自身も言ってきた方だが、一方で産業の論理だけを振りかざして『企業ではこうだから大学もやるべきだ』と言うのは不幸なことだと思っている。日本の産業人の大学への理解は米国と比べて遅れている。大学の実態を理解したうえで、大学と同じ目線からアドバイスする姿勢が必要だと思う」

 ――柘植さんのように産業人が大学に入ることについては。

 「今日の大学の問題は、大学人だけでは解決できないので、産業人が管理者や教職員としてもっと大学に入るべきだと思う。ただ、大学への理解がある人でないとマイナスになる場合もありますが」

 ――日本の大学もイノベーション(社会的・経済的価値の創出)に積極的にかかわるよう主張していますね。

 「大学が発見、発明した知の中で、イノベーションにつながる可能性があるものを社会に学びながら見極めて研究を重ね、産業界に手渡していくことが重要だ。今は大学から生み出される人材と、社会が求める人材との間にミスマッチが起きているが、そうした研究をしていけば、社会が求める人材を育てていくこともできる」

◆個性的な人材育成の手本に

 ――どんな人材ですか。

 「本学は、幅広い基礎技術と一般教養を備えた社会を支える人材の育成に力を入れてきたが、今後は『シグマ(総和)型統合能力人材』の育成が重要になると考えている。幅広い基礎技術と教養に加え、技術経営能力やグローバルな視野を兼ね備えた人材で、このような人材こそ、産業界で白紙に絵を描いたり、イノベーションを担ったりすることができる」

 ――多くの工業大学や総合大学の工学部が「工学離れ」による志願者減に悩んでいます。

 「中学・高校の教育の問題だと思う。子どもはもの作りが大好きなのに、中学に入ると、とたんに壁にぶち当たる。それは、理科や数学が、社会を支えている様々な技術とどういう関連を持っているかを教えていないからです。本学では、併設の中学・高校の教員と、大学の教員、大学院生との協働で、この問題の改善に取り組んでいる」

 ――17年の創立90周年に向けた取り組みも始めました。

 「教育、研究、イノベーションという国づくりの三大要素を一体的に進める、というのが最大の目標だ。4月に、その舞台となる複合領域産学官民連携推進本部と、頭脳となる総合研究所を新設する」

 ――今春には新たにデザイン工学部も開設します。

 「現在の工学は、ターゲット(目的)、スコープ(守備範囲)、ディシプリン(学問分野)の三つが広がりすぎてしまった。これに対し、工学を設計科学としてとらえ直そうという学部です。21世紀のプロダクト(製品)デザインはどうあるべきかなど、社会の中から例題を抽出しながら考えていきます」

 ――06年の豊洲キャンパスへの移転でイメージがアップしました。09年には芝浦キャンパスも一新します。

 「イメージアップ効果はあると思うが、それに頼っていては長続きしない。むしろ、都心に近いという地の利を最大限生かし、日本の工学教育のロールモデルを目指したい。『芝浦工大の卒業生はひと味違うね』と言われるようになりたいですね」

    ◇

03年4月 日本で最初の技術経営(MOT)の専門職大学院を設置

06年4月 東京都江東区豊洲にキャンパスを移転

07年   創立80周年

08年4月 90周年に向けて「チャレンジSIT(芝浦工業大学)―90作戦」を開始

09年4月 複合領域産学官民連携推進本部、SIT総合研究所を新設。芝浦キャンパスにデザイン工学部を開設

    ◇

 東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、専門は機械工学。三菱重工業に入社し、代表取締役常務取締役技術本部長などを務めた。政府の総合科学技術会議議員などを経て、07年12月から現職。65歳。

◆記者からひとこと

 問題が起これば直ちに回答を求め、前向きな提案は即決する。創立80周年が終われば、すぐ90周年に向けた作戦を立案。ある職員は「これまでとスピードが違う」。企業のやり方を取り入れることで、何かと腰の重い大学を変えようと奮闘中だ。

    ◇

 「学長力」は、これで終わります。

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