content current positionasahi.com > ENGLISH > Asahi Weeklytop of English section
【英語を旅する】

現代の英語(7)

寺澤 盾 東京大学大学院助教授

 前回は、1960年代以降のフェミニズムの流れの中で、女性に対して差別的な様々な英語表現が批判され、それに代わる言い回しが提案されてきた様子を見た。フェミニズムの影響は、さらに英語の文法面にまで及んでいる。

 伝統的な英文法では、Everyone loves his mother when he is a child. のような文において、男性だけでなく女性も含む集団を指しているeveryoneを男性形の代名詞he, hisで受けるのが正しいとされてきた。なお、everyoneは、動詞lovesに3人称単数現在の語尾 -sがついていることからもわかるように、文法的には単数扱いである。

 フェミニストたちは、こうした代名詞の用法は、everyoneの表す集団に女性が含まれていないかのような印象を与え、その存在を無視することにつながると主張した。このような問題を解決するために様々な方法が考案されてきたが、そのうちの一つは、男女両性の単数代名詞の併置、すなわちhe or she, his (him) or herである。これを用いて先程の文を書き改めると、Everyone loves his or her mother when he or she is a child. となる。

 he or she, his (him) or herの代わりに、「レディーファースト」ということで、she or he, her or his (him) の使用も見られる。he or sheやshe or heに対しては、書き言葉の場合、s / heという簡便な表記もあるが、主格以外の場合はそうした縮約はできない。いずれにしても、この表現は、文体的に冗長であるという感は否めない。

 そこで、最近注目を集めているのが、singular 'they'(単数用法のthey)と呼ばれる用法である。これは、Everyone loves their mother when they are a child. のように、単数のeveryoneをtheyで受ける用法を指すが、本来複数形のtheyで単数代名詞を受けるため、一部の文法家からは「数の一致」の観点から好ましくないとされてきた。しかし、代名詞theyの歴史を紐 (ひも) 解くと、theyが単数名詞・代名詞に対して使われる例は、すでに16世紀から見られ、決して新奇な表現ではない。アメリカ英語では、singular 'they' が徐々に定着しつつあるようである。

 また、イギリスで出版されている学習英英辞典Longman Dictionary of Contemporary Englishで、例えば、形容詞gratefulの定義を見ると、'feeling that you want to thank someone because of something kind that they have done' となっており、単数代名詞someoneを受けるのにtheyが使われている。言葉の権威ともいえる辞書においても、singular 'they' が用いられ始めているということは、この用法が今後市民権を得て、さらに広がっていくことを予感させる。

 前に見たように、最近の英訳聖書は、性差別表現を避けようとする傾向が見られるが、singular 'they' の採用には慎重なようである。例えば、従来の聖書では、「マタイ伝」(10章10節)のthe laborer deserves his food(働く者が食べ物を受けるのは当然である[新共同訳])のように、両性を含みうるlaborerという名詞を男性代名詞で受けていた。米国系の聖書New Revised Standard Version (1989) では、singular 'they' は用いずに、主語を複数形にしてlaborers deserve their foodと書き改めることで問題を回避している。なお、英国で出版されたRevised English Bible (1989)では、the worker deserves his keepとなっており、hisを引き続き用いている。

 英語では、例えば、That's a lovely ship. What is she called?(素敵な船ね。何という名前?)やEngland is proud of her poets.(イギリスは自国の詩人を誇りにしている)のように、船舶、車、国家、都市などを受けるのに女性代名詞が使われることがある。こうした無生物へのsheの使用も、フェミニズムの影響のもと、1960年代以降急速に衰えており、本来無生物に用いられるitにとって代わられつつある。

 また、米国では、ハリケーンが生じると、日本の台風のように1号、2号といった番号方式でなく、アルファベット順にAmy(エイミー)、Blanche(ブランチ)、Caroline(キャロライン)のような女性の名前が付けられていたが、1979年以降、「男女平等」に反するということで、ハリケーンの命名は、男性名と女性名が交互に使われるようになっている。

(毎月第2週・第4週に掲載します)


Asahi Weekly, March 11, 2007より

朝日新聞サービス

ここから広告です
広告終わり
初心者でも楽しく読める 週刊英和新聞
朝日ウィークリーロゴ
写真
「週刊英和新聞 朝日ウィークリー」
(1カ月 970円・1部 250円/税込み) 購読申込み
Asahi WEEKLY が聞ける リスニングCD
写真
「月刊 英語が聞こえる耳」
(毎月1日発行 1575円/税込み) cd申込み
英語学習コンテンツ が盛りだくさん
CLUB A&Aロゴ
ロゴ
「CLUB A&A 英語学習」
英語丼/英単語クロスワード/Asahi Weekly/和英対照 社説/和英対照 天声人語 …… CLUBA&Aへ

"Let's Study English!"

ここからENGLISHサイトマップです

ENGLISH site map

ENGLISHサイトマップ終わり

info

∧このページのトップに戻る
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。 Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.