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【Reading Practice】

上級をめざす英文精読講座(8)

薬袋 善郎 日本教育フォーラム講師

 次の英文は、法政大学の入試に出題されたものです。主人公のNickが大人の偽りの姿を知った時のことを描いた文章の一節ですが、よく読んで、下線部1)、2)を和訳しなさい。


 When Nick was younger, he had believed everything everybody told him about themselves. And not only told him ― because more often than not they didn't tell you, they just showed you. 1) They acted what they wanted you to think they were, just as if it was really what they really were. When Nick saw someone who was brave and a sort of hero, he had really believed he was that. And of course this made him feel cheap because he knew he himself could never be like that. 2) Christ, no wonder he had taken a back seat all his life!

【解説】
 第1文は「ニックは小さい頃、他人がニックに対して『僕はこういう人間なんだよ』と語ることを何から何まで全部信じていた」という意味です。第2文のnot only told himは第1文のeverybody told himを受けて「彼らはニックに対して『語った』だけではなかった」と言いたいのです。だとすると、文法的に正しい英語はThey did not only tell him.です。しかし、筆者はtold himの前に直接not onlyをつけて「not only(だけではない)+told him(ニックに語った)」としたのです。これは文法的には破格です。さて、because以下を考えて見ましょう。これを「because … tell youが副詞節で、 they just showed youという主節を修飾している」と考えてはいけません。これでは「彼らはしばしば人に語らなかったので、ただ行動で示した」となって意味が通りません。正しくは、becauseから最後までが副詞節で、節内にmore often than not they didn't tell youとthey just showed youという2つのS+Vが、コンマだけでつながれて、入っているのです。この2つのS+Vは同内容の言い換えなので、andを使わず、コンマだけでつないでいるのです。すると「彼らはしばしば人に語らなかった、逆に言うと、ただ行動で示したからなのだ」となります。ところで、これは、主節であるnot only told himに対する理由なのですが、単純に「彼らがニックに対して『語った』だけではなかった=行動でも示した」ことの理由ではないのです。そうではなくて、ここは、筆者が今not only told himと書いた(=筆者がそのように判断した)理由なのです。つまり「彼らはニックに対して『語った』だけではなかった。なぜ(私がこう言う)かというと、彼らはしばしば人に語らず、ただ行動で示したからなのだ」といっているのです。

 what they areは、They are X.(彼らは現在Xである、彼らは実際Xである)のXを関係代名詞のwhatに代えたもので、「彼らの現在の姿」とか「彼らの実際(ありのまま、本当)の姿」という意味を表します。本文はこれがもう少し複雑になっています。They want you to think that they are X.(彼らは、自分は実際Xであると他人に思わせたがっている)という文のXを関係代名詞のwhatに代えるとwhat they want you to think that they are(彼らが自分の実際の姿であると他人に思わせたがっている姿)となります。ここから従属接続詞のthatを省略したのが本文です。したがって、what they wanted you to think they wereの全体が名詞節でactedの目的語になっているのです。「彼らは、これが自分の実際の姿であると他人に思わせたがっている姿を演じた」という意味です。just as if it was really what they really wereのitはwhat they wanted you to think they wereを指し、what they really wereは「彼らの本当の姿」という意味です。したがって、ここは「まるで、それが彼らの本当の姿であるかのように(…を演じた)」となります。

 登場人物が心の中で思ったことをquotation marksで括 (くく) らずに、地の文の中に埋没させて書く書き方を「描出話法」といいます。描出話法では、時制や人称代名詞や時間・場所の副詞などは筆者から見た形に変化させます。この点は間接話法と同じなのです。最後のChrist, no wonder he had taken a back seat all his life! は、ニックが心の中で思ったことを描出話法で書いたもので、時制と人称代名詞は筆者の目から見た形に変化しています。本当にニックが心の中で思ったのはChrist, no wonder I have taken a back seat all my life!(こんちくしょう、僕がこれまでずっと人の後塵=こうじん=ばかり拝してきたのも当然だ!)という文です。

【参考試訳】
 ニックは小さい頃、他人がニックに対して『僕はこういう人間なんだよ』と語ることを何から何まで全部信じていた。彼らはニックに対して『語った』だけではなかった。というのは、彼らはしばしば口で語らず、ただ行動で示したからなのだ。彼らは、これが自分の実際の姿であると他人に思わせたがっている姿を、それがまるで彼らの本当の姿であるかのように、演じた。ニックは、勇敢で英雄のような人を見ると、その人はそういう人なんだと頭から信じ込んだ。そして、当然のことながら、自分は決してそういうふうにはなれないことを知っていたので、自分を安っぽい人間だと感じた。こんちくしょう、これじゃ、僕がこれまでずっと人の背中ばかり追っかけてきたのも当然だ!

 (毎月第1週・第3週に掲載します)


Asahi Weekly, July 16, 2006より

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