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【英語を旅する】
英語の発達(5)寺澤盾 東京大学大学院助教授 古英語のなぞなぞ以下の古英語の表現(ケニング)が何を指しているのか、謎解きをしてください。例えば、hron-rad(鯨の路)は「海」を意味します。答えはこの記事の末尾を参照のこと。
(1) feorh-hus(命の家)= 古英語ではラテン語や北欧の古ノルド語からの借用語はみられたが、中英語や近代英語と比べると外来語への依存度は低い。古英語期において、新たな概念・事物などに対応して語彙 (い) を増やす必要が生じた時、どのように対処したのであろうか。そのような場合、古英語では一般的に借用語に頼らず自前の素材、つまり英語にもともとあった語などを組み合わせることで新語を形成した。 古英語における新語の形成には大きく分けて2通りの方法があった。1つは、接辞(語とは違ってそれ自体、単独では用いられない要素)を語に付けて新たな語を造る方法であり、派生(derivation)と呼ばれる。現代英語の動詞getに対応する古英語はgietanであるが、be-, for-, ofer- (= over), on-, under- などの接頭辞を付けることでbegietan(得る)、forgietan(忘れる)、ofergietan(怠る)、ongietan(つかむ、把握する)、undergietan(理解する)など微妙に意味の異なる動詞を形成することが出来る。また、古英語の名詞heofon(現代英語のheavenに対応)は、接尾辞を付けることで、heofon-cund, heofon-cund-lic, heofon-lic(e), heofon-iscのような「天の、天から(の)」を意味する様々な形容詞・副詞が生み出される。 もう1つの新語形成の方法は、語と語を結びつけて別の語を作り出すもので、複合または合成(compounding)と呼ばれるものである。古英語のheofonは接辞と結びついて、いくつかの派生語を生み出すだけでなく、別の語と結合してheofon-beorht(天のように輝いた)、heofon-dream(天上の喜び)、heofon-engel(天使)、heofon-steorra(天の星)など様々な複合語を作り出す。heofonはこの他にも、heofon-candle(天のろうそく=太陽・月・星)、heofon-cyning(天の王=神)、heofon-dugu(天の軍勢=天使)、heofon-weard(天の守り手=神)のような複合語を作り出すが、このように隠喩 (いんゆ) を伴った複合語を特にケニング(kenning)という。こうした比喩 (ゆ) 表現は、特に詩において好まれた。ここで頭の体操をかねて、囲みコラムにあげたケニングが何を指しているのか謎解きをして頂きたい。 さて、古英語で隆盛を誇った複合語もその多くが現代英語まで伝わらず廃語になってしまった。例えば、「ランプ」を表すのに古英語ではleoht-fæt(光の器)という複合語が使われたが、中英語期にフランス語からlampが入ってくると、この語は廃語となった。また、古英語のtungol-cræft(天体学;天文学と占星術の両方を含む)は、中英語期にフランス語から借用されたastronomy(天文学)やastrology(占星術)によって取って代えられた。なお、この両語は、ギリシア語まで遡 (さかのぼ) れるが、ラテン語とフランス語を経由して英語に借用されたものである。 古英語で用いられていた複合語が現代英語まで伝わっている場合でも、綴 (つづ) りや発音の変化によって複合語の痕跡をとどめていないこともある。「ヒナギク」は現代英語でdaisyというが、古英語ではdæges-eageという複合語であった。dæges-eageは現代英語で言い換えるとdayユs eye(日・昼の眼=太陽)であり、ヒナギクの花が朝開いて夕方しぼむことや花の形が太陽に似ているのにちなむ。また、現代英語のlord(支配者、主人)は古英語ではhlafordであり、これはもともとhlaf-weard(パンを守る者=一家の主人)という複合語に由来する。なお、hlafは現代英語のloaf(パンの一塊)に発達した。同様に、ladyという言葉も、古英語ではhlaf-digeであり、この語も原義は「パンをこねる者」である。 このように、一般に複合語は時とともにそれを構成する個々の要素の意味が失われ、1語のようになっていく傾向が見られる。日本語においても、「耕す」や「蛤 (はまぐり)」は本来それぞれ「田+返す」(田を掘り返す)や「浜+栗」という複合語に由来するが、現代の日本語話者の中でこうした語源を意識する人は少ないであろう。 (なぞなぞの答: (1)[命の宿る]身体、(2)[頭部にある宝石のように光る]眼、(3)[戦できらめく]剣、(4)[戦士が戦に友として携えていく]剣・武器、(5)[戦場でにわか雨のように降り注ぐ]矢・槍、(6)[海に浮ぶ木製の]船、(7)[海において馬のように人々を運ぶ]船、(8)[金・宝物を褒美として与える]主君・王、(9)[宴で人を楽しませる木製の]ハープ、(10)[雨水を蓄える]雨雲) (毎月第2週・第4週に掲載します) Asahi Weekly, August 13, 2006より
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