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【英語を旅する】

英語の発達(7)

寺澤 盾 東京大学大学院助教授

【ボキャブラリー・クイズ】

 (1)から(10)では、左端にある英単語と意味上関連のある語句が並んでいます。空所にそれぞれ英単語を1つ入れてください。答えはこの記事末尾を参照のこと。

(例)dog: canine tooth(犬歯), kennel(犬小屋)
(1)sun, moon: ________ system(太陽系), ________ eclipse(月食)
(2)star: ________(占星術), ________(星座)
(3)sea: ________ sports(海洋スポーツ), ________(海軍)
(4)earth: ________ warming(地球温暖化), ________(地球儀)
(5)mind: ________(心理学), ________ health(心の健康)
(6)body: ________ labor(肉体労働), ________ punishment(体罰)
(7)tooth: ________(歯医者), ________ plaque(歯垢)
(8)sleep: ________(不眠症), ________(冬眠)
(9)ten: ________(10年間), ________ system(10進法)
(10)hundred: ________(100年、1世紀), ________ anniversary(100年記念)

 中英語期におけるフランス語の借用は、英語本来の語彙 (い)にも大きな影響を与えた。まず、フランス語の導入によって多くの本来語が廃語に追い込まれた。すでに見たように、英語はparent, uncle, aunt, nephew, niece, cousinなどの親族用語をフランス語に負っているが、これにより古英語期にあった「親」、「おじ」、「おば」、「おい」、「めい」、「いとこ」を表す語は死語となった。

 また、フランス語の移入後、類義の英語本来語が残った場合でも、競合を避けるために本来語が意味を変えて存続していることもある。古英語では、「動物、獣」を表す語としてはdeor(現代英語のdeer)という語が用いられたが、中英語期にフランス語からbeastという言葉が入ると、意味を狭めて、動物の中でも主に「鹿」を指す語となった。なお、中英語期にはさらに「動物」を表す語としてanimalがフランス語(またはラテン語)から借用されたが、現在ではanimalが「動物一般」の意味を担い、beastの方は主に「獣」に限定されている。

 さて、中英語ではフランス語ほどではないが、contempt(軽蔑)、picture(絵画)、polite(礼儀正しい)など、ラテン語からの借用語も多く見られる。politeは14世紀末にラテン語より借用されたが、その当時の意味は「みがかれた」であり、「洗練された」という意味を経て、「礼儀正しい」を意味するようになったのは18世紀半ば以降である。ちなみに、politeはpolish(みがく;14世紀にフランス語より借用)と同語源である。

 中英語期において、数多くのフランス語やラテン語を借用したお蔭 (かげ)で、英語ではask, question, inquire, interrogateのように類義表現が豊かになり、微妙なニュアンスの違いを表すことができる。しかし、外来語の導入にはマイナス面もある。例えば、英語で「目」はeyeというが、「目」に関連する「眼科医」、「眼鏡屋」はなんというであろうか。「眼科医」は、eye doctorという表現もあるが、広告・看板ではoculist(ラテン語oculus[目]より派生)の方を目にすることが多い。この他に「眼科医」に対してophthalmologist(ギリシア語ophthalmos[目]より派生)を用いることもある。「眼鏡屋」は、optician(ギリシア語optos[目に見える]より派生)であるが、アメリカ英語ではoculistも用いられる。いずれの場合も、「目」に関する語でありながら、eyeとの形態上の関連は全く見られない。

 同様に「犬」をdogというのに、「犬歯」はcanine tooth(canineはラテン語canis[犬]より)、「犬小屋」はkennel(ラテン語canisより派生)という。(余談になるが、筆者は中学校の時kennelを「ケン (犬) 寝る」と覚えるように教わった。)このように英語では、語源が異なるため、意味上関連がありながら、それが語形に反映されない語群が数多くあり、学習者だけでなく母語話者にとっても英語語彙の習得・記憶を難しくさせている。囲みにある「ボキャブラリー・クイズ」に挑戦してみて頂きたい。

 さて、ノルマン征服以降しばらくの間は、英国はフランスとの強いつながりを持つことになったが、ヘンリー2世の四男ジョン(1167-1216)が王位に就くと、1204年、フランスの領地を巡ってフランス王フィリップ2世と争ったがそれに敗れ、ノルマンディーなどのフランスの領地を失った。このためジョン王は失地王(Lackland)と呼ばれた。この出来事によって、それ以前はフランスに広大な土地を所有し、フランス王に忠誠を誓っていた英国王や貴族の間では、次第にフランスとの関係が希薄になり、それに伴って自国に対する国家意識が形成されていくことになる。

 エドワード3世(1312-77)のもとでフランスとの間でフランス王位や領土を巡っていわゆる百年戦争(Hundred Years' War 1337-1453)が勃発 (ぼっぱつ) するとフランス語は敵性語となり英語に対する意識が高まり、1362年には議会の開会宣言が始めて英語で行われた。また同年、法廷においても訴訟をフランス語でなく英語で行なうことを定める法が制定された。1399年に即位したヘンリー4世(1366-1413)は、ノルマン征服以来初めて英語を母語とする王であった。

 『カンタベリー物語』など多くの傑作を英語で著したジェフリー・チョーサー(1343頃-1400)が活躍したのは、まさに英語が復権をとげていた時であり、もし百年早く生まれていたらチョーサーは「英詩の父」と呼ばれることはなかったであろう。

ボキャブラリー・クイズの答:

(1)solar; lunar(2)astrology; constellation(3)marine; navy(4)global; globe(5)psychology; mental(6)physical; corporal [physicalやbodilyも可](7)dentist; dental(8)insomnia; hibernation(9)decade; decimal(10)century; centennial


Asahi Weekly, September 10, 2006より

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