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上級をめざす英文精読講座(12)

By 薬袋 善郎 日本教育フォーラム講師

 今回は、明治中期に紹介されて以来、日本においても不朽の名作の名をほしいままにしてきたCharles Lamb (1775-1834) の "The Essays of Elia" (『エリア随筆集(1823)』)です。戦前の大英文学者平田禿木(ひらた・とくぼく)はLambについて、次のように書いています。「彼が散文に於けるは、キイツが詩に於ける如きものがあった、その技実に神に入っている。自分はこれを以って英文学の双璧としたい。」

 ここに取り上げた英文はMackery End, in Hertfordshireと題するエッセイの一節です。これは、Lambが姉のMaryのことをBridget Eliaという登場人物に仮託して語っているところです。いつもは参考試訳として私の拙い和訳をお目にかけていますが、今回は「エリアの如き名文は禿木氏の筆を俟ってはじめて其の真味が窺われるものとは、独り自分のみの感じではない(岡倉由三郎)」「『エリア随筆集』における禿木の訳しぶりの巧みさはほとんど翻訳における奇跡といってよいほどのものである(小川和夫)」とまで評されている平田禿木の名訳を味わって下さい。

 Her education in youth was not much attended to; and she happily missed all that train of female garniture which passeth by the name of accomplishments. She was tumbled early, by accident or design, into a spacious closet of good old English reading, without much selection or prohibition, and browsed at will upon that fair and wholesome pasturage. Had I twenty girls, they should be brought up exactly in this fashion. I know not whether their chance in wedlock might not be diminished by it, but I can answer for it that it makes (if the worst comes to the worst) most incomparable old maids.

【解説】

 was attended toはattend to 〜(〜に注意を払う)を受身にしたもので「群動詞の受身」です。happilyは文修飾副詞で、she missed all ... accomplishmentsの全体を修飾しています。次の2つの例文を比べて下さい。Happily he did not die.(幸いなことに、彼は死ななかった/ Happilyは文修飾)、He did not die happily.(彼は幸せな死に方をしなかった/ happilyは語修飾)

 missは「しないで済ます」という意味で、miss meals(食事を抜く)のように使います。all that train of female garnitureは「あの一連の女性の装飾のすべて」という意味です。-ethは古い英語で3人称・単数・現在形の動詞を作る接尾辞です。したがってpassethは今の英語ならpassesと言うところです。

 accomplishmentsは「たしなみ、教養」という意味です。a spacious closet of good old English readingは、おそらく父親の書斎を指しています。that fair and wholesome pasturage(あの美しい健全な牧場)というのは比喩 (ゆ) 的に「書斎」を指しています。したがってbrowsed at will(意のままに草を食んだ)というのは「好き放題に読書した」ということです。Had I twenty girlsは「倒置によるifの省略」が起こっていて、普通の語順で言えばif I had twenty girlsとなります。このifは仮定+譲歩(=even if )で「たとえ私に20人の娘がいるとしても」という意味です。

 三人称の主語にshallを使った場合「私はSにVさせよう」という意味を表します。たとえばThey shall be dismissed.と言った場合は「私は彼らが解雇されるようにしよう⇒彼らは首だ」という意味で、I will dismiss them.と同じ意味です。they should be brought upのshouldは、このshallを仮定法過去で使ったものです。したがって、この文はI would bring up them(私は彼らを育てるだろう)という意味です。

 answer for 〜は「〜を保証する、〜に責任を持つ」という意味ですが、〜にthat節を入れたいときanswer for that S + Vとすることはできません。なぜならthat節が前置詞の目的語になるときは、inやexceptなど一部の前置詞の他は、前置詞を省略しなければいけないというルールがあるからです。そこで、とりあえず仮目的語のitをforの目的語にしてforを残し、その後で真目的語としてthat節を置いたのです。

 if the worst comes to the worstは「最悪の場合には」という意味ですが、ここではif = even ifで「最悪の場合でも」という意味です。

【平田禿木訳】

 娘の折のその教育は、余り面倒を見られなかった方なのでして、幸ひにもあの、芸事といふ名で通っている、数々の女性の身の装飾一切を割愛して仕舞ったのでした。ちょっとした拍子でか、また、特に思ひ立ってか知れないが、幼い頃から、別に大して選択もせず、また、禁止もされずに、古英国の穏健な読物の、廣い文庫へと転げ込み、あの麗はしい、健全な牧場の中で、心のままに草を喰んだのでした。手前に二十人の娘があったにせよ、きっかりこれと同じ流儀で育てたに違ひありませぬ。その為め縁が遠くなる心配はないか何うか、そこは保証の限りではないのですが、(よくよく間が悪いにしたとこで)無類飛切という好老嬢を成すこと、屹度もう請合ひであるのです。

 (毎月第1週・第3週に掲載します)


Asahi Weekly, September 17, 2006より

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