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【READING PRACTICE】

上級を目指す英文精読講座

薬袋 善郎 日本教育フォーラム講師

 今回は英国の作家George R. Gissing(1857〜1903)の文章です。ギッシングと言えば、何といっても随想文学の傑作 "The Private Papers of Henry Ryecroft"『ヘンリ・ライクロフトの私記』が有名ですが、今回は彼の死後1906年に発表された "The House of Cobwebs"『蜘蛛の巣の家』という短編小説の一節を読んでみましょう。

 この小説の主人公Goldthorpeはロンドンに暮らす若い貧乏文士です。部屋代が払えなくなった彼は、それまで住んでいた部屋を引き払い、蜘蛛 (くも) の巣が張った古い家に、大家のSpicer氏の好意で、ただ同然の家賃で引っ越します。彼はその家で小説を書き上げますが、過労から病に倒れ、療養のため実家に戻ります。半年ほどたったある日、病の癒 (い) えつつあった彼のもとへ出版社から小説の版権を購入したいという連絡が入りました。Goldthorpeは早速ロンドンに出て出版社を訪ねます。その足で、彼はこのうれしい知らせをSpicer氏に知らせるべく、「蜘蛛の巣が張った家」に向かいます。次は、その情景を描いた一節です。

【問】 下線部の構造を考えなさい。
 The next morning the triumphant author travelled to London. For two or three days a violent gale had been blowing, with much damage throughout the country; on his journey Goldthorpe saw many great trees lying prostrate, beaten, as though scornfully, by the cold rain which now descended in torrents. Arrived in town, he went to the house where he had lodged in the time of comparative prosperity, and there was lucky enough to find his old rooms vacant. On the morrow he called upon the gracious publishers, and after that, under a sky now become more gentle, he took his way towards the abode of Mr. Spicer.

 Eager to communicate the joyous news, glad in the prospect of seeing his simple-hearted friend, he went at a great pace up the ascending road.

【解説】
 過去分詞形の動詞は、be助動詞がつくと「受身形」、have助動詞がつくと「完了形」を構成します。それに対して、助動詞がつかずに単独で用いられると(この状態を「裸の過去分詞」と呼ぶことにします)「過去分詞形容詞用法」か「分詞構文」になります。「裸の過去分詞」は他動詞の過去分詞がなるのが普通です。したがって「裸の過去分詞」は通常「受身の意味」を表します。

 ところが一部の特定の自動詞は「裸の過去分詞」で用いられ、その場合には「〜してしまった」という「完了の意味」を表すのです。このような自動詞は、完全自動詞(=第1文型を作る動詞)の場合はgo、come、arriveなどの「往来発着」を表す動詞が中心で、それ以外ではhappen、fall、retire、gatherなどです。一方、不完全自動詞(=第2文型を作る動詞)の場合はbecome、turn、goなどの「〜になる」という意味を表す動詞に限られます。次は後者の例文です。He is a Christian turned Buddhist. (彼は仏教徒になってしまったキリスト教徒だ⇒彼は元キリスト教徒で今は仏教徒だ) turnedは過去分詞形容詞用法でa Christianを修飾しています。Buddhistはturnedの補語です。それでは本文を検討しましょう。

 Arrived in townのArrivedは完全自動詞の過去分詞形で、分詞構文として用いられています。意味は「ロンドンに到着(するのが完了)した時に」です。イギリス英語では単数無冠詞のtownがロンドンを表すことがあります。there was lucky enough to find his old rooms vacantを「there is 構文」と考えた人はいませんか?そうではありません。thereはthe houseを指していて、wasの主語はheです。thereの前のandはwentとwasをつないでいるのです。

 and after that, under a sky now become more gentle, の個所は頭をひねった人が多いと思います。わからなくなったら活用を考えるのは英語の鉄則です。becomeは何形なのでしょうか?現在形だと必ず述語動詞ですから主語を探さなければなりません。しかし、skyもthatもheも三人称単数ですから、これらが主語であるなら現在形はbecomesにならなければいけません。したがって、現在形ではありません。では、原形でしょうか?しかし、becomeは原形を用いるケースのいずれにも該当しません。このことからbecomeは過去分詞形だとわかります。

 裸(=be助動詞もhave助動詞もついていない)ですから過去分詞形容詞用法か分詞構文のどちらかです。ここまでくればわかります。このbecomeは過去分詞形容詞用法でa skyを修飾しているのです。more gentleはbecomeの補語です。a sky now become more gentleは「今は(旅行中よりも)もっと穏やかになっ(てしまっ)た空」という意味です。

【参考試訳】
 翌朝、意気揚々とした作家はロンドンへ旅立った。この二、三日強風が吹きつのって、田舎のあちこちでかなりの被害があった。旅行中ゴールドソープはたくさんの大木が倒れていて、それが今滝のように降り注ぐ冷たい雨に、まるで軽べつされているかのように、たたかれているのを見た。ロンドンに着くと、彼は比較的懐具合がよかった頃に暮らしていた家に行ってみた。すると、幸いにも彼のもといた部屋は空いていた。翌日、彼は慈悲深い出版社を訪ね、その後、今はもっと穏やかになった空の下を、スパイサー氏の住まいの方に向かった。

 うれしい知らせを早く伝えたくて、また同時に、純真な心をもった友人に会える期待に胸を膨らませて、彼は上り坂を急ぎ足で上がって行った。

(毎月第1週・第3週に掲載します)


Asahi Weekly, November 19, 2006より

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