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【英語を旅する】

現代の英語(1)

寺澤 盾 東京大学大学院助教授

 これまで、10数回にわたって、ゲルマンの小民族によってブリテン島で話されていた英語が、その後1500年の歳月をかけて、どのように約15億人の話者を持つ世界語・国際語となっていったかを概観した。英語は、過去においてこのような大きな変化を経験してきたが、20世紀以降も英語はさらなる変化を続けている。今回から数回にわたり、20世紀以降、英語がどのように変容しているか見ていきたい。

 20世紀及び21世紀のキーワードのひとつとして、「科学技術の急速な進歩」が挙げられるだろう。とりわけ、20世紀後半から今日まで、コンピューターを中心とする情報技術(information technology, 略してIT)の発達は目を見張るものがある。そうした技術の進歩に伴い、新たな概念・事物が生まれると、それに対応して新語が造られたり、あるいはすでにある語の意味を変えたりすることが行われる。ITの中心は、米国であるので、当然のこととして、この分野の新語形成には英語が中心的役割を担うことになる。以下、コンピューター関連の分野で生まれた新たな英語表現をみていきたい。

 computerという語が英語に最初に現れたのは、1646年であるが、その当時は「計算・算定する人」を表わした。「電算機、コンピューター」の意味でcomputerが使われ始めたのは、1941年ごろからで、以降、computer fiction, computer game, computer graphics, computer science, computer scientist, personal computerなど、computerを含むおびただしい数の新語が生まれた。computer fictionは、テレビゲームの一種であり、プレーヤーは話の筋を選択することによって物語に参加することが出来る。interactive fiction(双方向小説)とも呼ばれる。

 パソコンなどの普及によって、コンピューターは、専門家だけでなく、一般の人にも急速に浸透していき、いわゆる「コンピューターおたく」と呼ばれる人も現れている。そうした人を英語ではcomputer junkie(コンピューター中毒者)、computerholic(コンピューター中毒者)、mouse potato(パソコン狂)などと呼ぶ。computerholicは、computerにalcoholicから作られた接辞 -holic(〜中毒者)をつけた言い方である。mouse potatoという面白い表現は、couch potato(長いす[couch]に座ってテレビ・ビデオばかり見ている人)をまねた表現で、さしずめ「コンピューターのマウスを手にパソコン画面ばかり見ている人」を表わしている。ところで、mouseは古英語以来、英語にある単語であるが、パソコンなどの「マウス」を指すようになったのは1965年以降である。また、「ネズミ」の意味のmouseの複数形は通常miceであるが、コンピューター用語として使われる場合は、mousesという複数形が用いられることがある。

 一方、コンピューター全盛の時代は、それに恐怖・嫌悪感を抱く人々、すなわちcomputerphobe(コンピューター恐怖症[不信]の人)も生み出しているが、現代社会で生きていくためには、ある程度コンピューターを使いこなす能力を身に付けていることが要求される。「コンピューター使用能力」を表わす語として、computer literacy (形容詞形はcomputer-literate)という語も登場した。(literacyという語は、もともとは「読み書きの能力」を表わす。)この複合語は、最初の部分と末尾の部分を結びつけたcomputeracy (← comput[er] + [lit]eracy) という縮約形でも用いられる。このように2つの語をいわば圧縮して造る語を混成語(blend)といい、brunch (←br[eakfast] + [l]unch)、smog (←sm[oke] + [f]og)などもその典型例である。

 コンピューター機器の方も、多くの一般人にとって使いやすいように、つまりuser-friendlyなものに年々改良が加えられている。この表現は、1977年初例で、当初はコンピューターに関して用いられたが、その後はuser-friendly cameraやuser-friendly guideのようにコンピューター以外のものに対しても使われるようになった。また、この表現を契機に、customer-friendly(顧客にとって便利な)、 environment-friendly(環境に優しい)、ozone-friendly(オゾン層を破壊しない、フロンなどを使っていない)、reader-friendly(読者にやさしい、読みやすい)など、様々な分野(特に環境保護の分野)で、-friendlyを要素とする新語が生まれている。


Asahi Weekly, December 10, 2006より

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