CURL UP & READ
錯綜する筋書き、翻弄される悦楽
姉のドナーとして生きる妹の苦悩
アメリカをだめにした100人一覧
"Sight Unseen"
By Robert Goddard
(Corgi Books, $9.99)
今月は、英国のミステリー界を代表する大御所の一人といわれるRobert Goddardの最新作Sight Unseenをご紹介しよう。
1981年7月、Stonehengeを観光の目玉とする絵のように美しいイングランド南部の村、Aveburyで、物語は幕をあける。
観光地ののどかな昼下がり。パブの戸外のテーブルに若い男が腰を下ろし、人待ち顔でビールをちびちび飲んでいる。金髪の愛らしい男の子と女の子が、かけっこしながら通りすぎていく。そのすぐ後ろに、若い女性と、末っ子らしき2歳ぐらいの幼女。幼女はしゃがんで、キンポウゲを摘みはじめる。
だが次の瞬間、このほほ笑ましい光景は、凄(せい)惨な地獄へと一変した。末っ子が何者かにさらわれて白いバンに押しこめられ、妹を取りり返そうとした金髪の女の子が、走り出したバンにはねられて死んでしまったのだ。It begins at Avebury. But it does not end there. 序章の最後に書かれたこの言葉通り、悲劇はここでは終わらず、現代へと舞台を移す。
犯人は不明、末っ子Tamsinの行方もわからぬままに、23年の歳月が流れた。かつてAveburyのパブにいた男David Umberのもとに、ある日、一人の男がやってくる。事件の捜査を指揮したChief Inspector Sharp。すでに引退の身だが、再捜査を促す謎の手紙を匿名の人物から受けとったのをきっかけに、自分なりにもう一度調べてみようという気になり、目撃者であるUmberの協力を要請しにきたのだった。
こうしてUmberとSharpの、過去への旅が始まった。事件関係者を訪ねてまわり、丹念な聞き込みを重ねるうちに、想像もしていなかった驚愕(がく)の事実が次々と明らかになっていく。
Goddardの作品はどれも、難解なジグソーパズルに似ている。作中にいくつものピースがちりばめてあり、読み進むにつれて、すこしずつ絵ができ上がっていく。最後のピースがカチャッとはまった瞬間、鮮やかな絵が完成し、「はァ……、そうだったのか」と、読者をうならせる仕掛けになっている。
著書は本書を含めて長編17作。どれも評価が高い。"When it comes to duplicity and intrigue, Goddard is second to none."とDaily Mail紙が絶賛しているように、錯綜(そう)したプロットで読者を翻弄(ろう)する技は超一流。だまされる心地良さを存分に味わわせてくれる作家である。
(山本やよい)
"My Sister's Keeper"
By Jodi Picoult
(Washington Square Press, $14.00)
主人公のAnnaはアメリカ東海岸に住む5人家族の末っ子で、一見どこにでもいそうな健康で快活な13歳の女の子。でもその実、ある重要な使命を背負ってこの世に生を受けたのだ。それは白血病を患う3歳年上の姉Kateの命を救うこと。
病気の娘の命を永らえるために両親が下した決断は、人工授精により組織適合性が完全に一致するいわゆるdesigner babyをもうけ、その子をKateのための血液や臓器のドナーとすることだった。生まれた直後の臍(さい)帯血の提供に始まり、Kateの病状が悪化する度にAnnaは両親に言われるまま、当たり前のように白血球や幹細胞、骨髄の採取・移植のために病院に通う。しかしKateの病気が進行し、腎臓移植が必要となった時、姉のために自分の命を削り続けることに疑問を抱いたAnnaは弁護士を雇い、自分の体を守る権利を主張し、両親を訴える。「なぜ今になって?」との弁護士の質問に対し、Annaは答える。"Because it never stops."
物語はAnnaを中心に両親、兄、弁護士、未成年であるAnnaの利益を代表するため法廷に指名された後見人の6人が、それぞれの視点で交互に一人称で語る形式で進む。交錯する心理描写が秀逸。(ただ、語り手により6種類の違うタイプフェースを使う手法は面白いが、少々あざとい気もするのだが…。)
誰よりも自分に近い最愛の姉の命を救いたいと願うAnna。でも、所詮(せん)自分は姉の分身、もっと有り体に言えば"spare parts"でしかないのか。一方、ドナーとして不適合と判定された兄は、ないがしろにされた寂しさを紛らすため非行に走る。長女のことで頭がいっぱいで、他の子供たちの心の内にまで思いが至らない母親と、どの子も平等に愛するがために苦悩する父親。ひとりひとりの思いが痛いほど伝わってきて共感を呼び、自分がその立場だったらどうするだろうかと思わずにはいられない。
本書は安楽死や若者の自殺などcontroversialなテーマを扱う作家として知られるPicoultの11冊目の小説。臓器移植や遺伝子設計など、医学の進歩により新たに生じる生命倫理の問題、重病人を抱える家族の葛藤(かっとう)、ドナーにかけられる期待とその重圧など、テーマは重いが、文章は読みやすく、衝撃的な結末まで一気に読ませる。
(須川牧子)
"100 People Who Are Screwing Up America"
By Bernard Goldberg
(HarperCollins, $25.95)
アメリカをダメにしている100人。順位つき。その社会背景も描いた。保守層が憂う現代アメリカの分析でもある。自由主義者やリベラル層だけでなく、金もうけに走る企業社会、欲望に身をゆだねる大衆、娯楽に傾くメディアなどもこき下ろした。保守派が何を嫌っているのか、よく分かる。
筆者は米CBSテレビなどの報道番組で知られる。米映画監督のマイケル・ムーア氏が米国について「世界各地に悲嘆と苦痛をもたらす国」と英紙に語り、2001年の米同時多発テロについて「これがブッシュへの報復だとしたら、とんでもないことだ。犠牲者たちの多くは大統領選でブッシュを支持さえしていないのに」と書いたことが、かなり気に障ったようだ。
攻撃の筆頭はAmerica Bashers (米批判勢力)。米国の知識層や文化人、芸能人らが母国をおとしめているという。If something bad happens someplace in the world, it's got to be our fault. This country, as far as they are concerned, is a never-ending source of embarrassment.(どこかで悪いことが起きれば、我々のせいに決まっている。そう言っている連中にとって、この国は恥であり続ける)。
悪口の表現は参考になる。Hollywood blowhards who think they are smart just because they're famous(有名だから賢いと思っているセレブのうるさい奴ら)。Well-dressed crooks at some of America's biggest corporations(高級服に身を包んだ大企業の悪党)。American jackals, the trial lawyers, who file the kind of frivolous lawsuits that are so ridiculous they actually make us laugh(取るに足りない訴訟を連発する弁護士たち。あまりにもばかばかしいので、思わず笑ってしまうけれどもね)。
差別や格差を減らす是正措置が過剰になった。About 70 percent of all Americans have special advantage: they are disadvantaged.(米国人の7割は特に有利になった。何らかのハンデを負っていることになったからだ)。賠償めあての訴訟が定着し、「アイロンの説明書に『着たまま使わないでください』とある」。こうした社会にはびこる「無責任層」が米国を蝕(むしば)んでいるという。
一方的な批判にはウェブに「気分が悪くなる」という個人書評もあったが、ベストセラーリストにも一時登場。筆者は「学生時代だったら保守派をやり玉にあげていた。年を重ねて賢くなった」。過剰に偏りがちな米社会への不満でもある。
(西崎 香)