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辞書GAKU事始め

辞書情報をネットで補う

磐崎 弘貞 筑波大学助教授

小さな辞書に載っていない情報は、大きな辞書を調べることで見つかります。しかし、大きな辞書にも載っていない用法に出くわすこともあるはずです。今回は、そんな場合の対処法を見ていきましょう。

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世界語としての英語の実態

 英語学習の過程で大きな辞書や文法書・語法書、あるいは文化事典などでも見つからない単語や表現に出会ったら、読者の皆さんはどうされていますか?

 そんな時にお勧めしたいのは、Googleなどの検索エンジンを使って、世界中の英語を調べてみることです。この方法なら、世界で使われている英語の傾向を知ることができます。

 「でも、インターネットは間違いだらけなんじゃないの?」といった不安を抱く人も多いことでしょう。確かに間違った情報が出ているのは疑いようがありません。たとえば、Google (www.google.co.jp)を使ってcomunication (mが1つ抜けている)を引いてみると、180万件以上ヒットします。日本人をはじめ非英語圏の外国人が書いたものが多いのですが、中には英語サイトでネイティブが犯したと思われるミスも多数ヒットします。tomorow (rが1つ足りない)も150万件ありました。

 しかし、綴(つづ)りミスは辞書を引けばほとんど察しがつきますから、それほど深刻な問題ではありません。英語はインターネット上のコミュニケーションの9割を占めると言われています。前述したネガティブな面を補って余りあるのが、大量の運用例から言葉の使い方の傾向を見て取れる点です。

 もはや英語は英米人の独占物ではなく、World Languageとしての役割を担っています。ネット上で観察できる英語の実態は、ネイティブとノンネイティブの両方を巻き込んでの看過できないサンプルになっているのです。その意味では、「バランスが取れている」と言われるBritish National CorpusやCOBUILD辞書のコーパスよりも、英語の動的なデータが入手できるわけです。これらの点を念頭に、どういう場面でインターネットが役立つかを実例で示しましょう。

用例の数は信頼の証し

 「語彙(い)が豊富だ」とか「大きな語彙サイズ」という場合のvocabularyに付く形容詞について考えてみます。『プラクティカル・ジーニアス』にはThe writer has a large vocabulary. という用例があり、largeが使えそうです。では、辞書にないbig vocabularyはどうでしょう? コロケーション辞書であるOxford Collocations Dictionaryを見ると、vocabularyを修飾する同義語としてextensive / large / rich / wideが記されていますが、bigはありません。そこで、Googleで調べてみます。検索のポイントとして、Googleでは"big vocabulary"のように2重引用符でくくると、その文字列が連続して使われるページと、ヒット数を表示してくれます。

 extensive vocabulary (29万4000例)、large vocabulary (49万6000例)、rich vocabulary (14万1000例)、wide vocabulary (7万6000例)、big vocabulary (4万1000例)、という結果が得られました。

 コロケーション辞書になかったbig vocabularyも、決して存在しないわけではなさそうです。とは言え、largeの方が10倍以上の頻度で使われることもわかります。『プラクティカル・ジーニアス英和』が、largeの用例を載せていたのもうなずけます。

問題作成にも十分な配慮を

 It is (comfort / comfortable) to live in this city. はある参考書にあった問題で、カッコ内のどちらかを選ばせるものです。これは、It is hard / easy to make friends here. などの形容詞型を想起させるのが出題意図のようで、comfortable が正解となっていました。

 でもちょっと待って下さい。It is comfort to (do)とは言わないのでしょうか。そこで先程の例にならってGoogleで"It is comfort to"を検索すると、toの後に名詞が来る場合に加えて、動詞が来る例も多数ヒットしました。

 It is comfort to know that I was not the only one. (私だけじゃなかったんだと知って安心した) / It is comfort to return home ... (帰ってくるのはいいものだ) / It is comfort to believe in "higher power." (より崇高なものの存在を信じるのは安らぎとなる) といった具合です。

 よって、この問題はどちらも正解になってしまいます。形容詞を正解とするなら「very (comfortable)」のようにする、名詞を正解にするなら「a lot of (comfort)」とするなど、出題にも工夫が必要になります。

実例が示す可算/不可算

 ある時、筆者が教えているクラスで「少女たちに教育を与えるのは村の義務である」を英訳する課題を与えたところ、educationを不定冠詞anを使って書いた生徒と、無冠詞とした生徒に分かれました。

 辞書でeducationを引くと、第1語義の「教育」は不可算名詞(U)扱いが多く、一見すると無冠詞がいいように思います。でも、中には、可算(C)、不可算(U)のどちらでもよいとする辞書もあります。あるいは、「教育をすること」は不可算だが、「教育を受けること」は可算とするといった、ちょっと首をかしげる説明も見られます。

 こうした場合、私はあまり語法説明にこだわらず、実例を見ることにしています。この場合も、以下の例を学習者と一緒にGoogleで調べてみました。

 provide girls with education (25件)、provide girls with an education (23件)、provide you with education (668件)、provide you with an education (572件)

 やはり、どちらも使われていることがわかり、不定冠詞が付いてもOKのようです。おそらく、教育というのは確かに不可算の要素が強いが、「個人の一定期間の教育」という意識が強いと不定冠詞がつく可算名詞となるようです。

動詞の型にも例外が

 同じ英作文クラスでは、We must educate people that it is important to teach children.という表現が何例か見られました。

 動詞educateを内外の主要辞書で調べても、educate A about B (AをBについて教育する)やeducate A to do (Aを〜するように教育する)という型はあるのですが、educate A that節 (Aに〜を教育する)という型は見つかりません。このように「人+that節」の型を取れるのは限定された動詞なのです。

 ところが意外なことに、Googleで"educate people that"を検索すると、The campaign hopes to educate people that consuming even a few drinks can impair driving.(少しでも酒を飲むと運転に悪影響があることを、このキャンペーンが教えてくれることを願う)のような例が多数ヒットします。ほとんどが、ネイティブの書いたものと判断でき、「tell 人 that節」などの類推で、動詞educateにも同様な用法が浸透しつつあることを示しているようです。

 *   *   *

 英語学習で注意すべきは、「辞書になければすべて不可、載っていればすべてOK」というわけではない点です。特に、多数のコロケーションや可算・不可算の詳しい使い分けなどは、スペースの関係で載っていない場合があり、適宜、インターネットで「裏」を取りながら、辞書情報を補足してみるといいでしょう。今後は上で見たeducateのような動詞型が、辞書に「正用法」として載る可能性も十分考えられます。



Asahi Weekly, May 14, 2006より

朝日新聞サービス

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