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10月に開催を控える「ターナー展」。英国の巨匠の生涯にわたる画業を総覧する、大規模な回顧展だ。
注目作品の一つが1808年に発表された油彩画「スピットヘッド:ポーツマス港に入る拿捕(だほ)された二隻のデンマーク船」だ。横幅2メートルを超える大画面には、大きな帆船から小舟までが、白い雲と黒々とうねる波の間に描き込まれている。
こうした「海景画」は、彼の油彩画の約3分の1を占めるという。ターナーはなぜ海を好んで描いたのか。
当時、イギリスは軍事や産業が発展した一方、美術的な面ではイタリアやフランス、オランダなどに後れを取っていた。「海景画は17世紀オランダが生んだ欧州絵画の伝統的テーマの一つ。ターナーはこうした正統なジャンルを高いレベルで描くことで、母国の美術を欧州諸国の水準に引き上げようとした」と法政大学の荒川裕子教授(西洋美術史)は見る。
また当時、他国と戦争を繰り広げていたイギリス人にとって「国土の境界を示す海は砦(とりで)であり、誇り。愛国心から海の絵に対するニーズは高く、ターナーはそれを読む力に抜きんでていたのです」。雄大な海の風景には、時代の世相が秘められている。
ターナー展は10月8日〜12月18日、東京都美術館で開催。
2013年7月17日付朝刊「イベントAsahi」掲載