複雑に交錯した直線と明快な色彩。建設作業中の活力に満ちた労働者たち。横浜美術館で開催中の「プーシキン美術館展」では、ロシア人コレクターが集めたピカソ、マティスなどの名作に並んで、フェルナン・レジェの大作「建設労働者たち」(1951年)がひときわ目を引く。20世紀フランス絵画の巨匠、レジェ晩年の代表作が、なぜロシアに? 背景には、困難な政治状況下、プーシキン美術館の美への揺るぎない信念と果敢な取り組みがあった。
そもそもソビエト政権下では前衛美術は社会主義体制にそぐわないと否定されていた。しかし、そのなかにあっても、同館はピカソやシャガールの個展、20世紀美術に関する国際巡回展などを積極的に開催。レジェの大規模な展覧会を開いたのはキューバ危機の翌63年のことだ。千葉大学の鴻野わか菜准教授は「プーシキン美術館はロシアにおいて常に先駆的で開放的な役割を果たしてきた」という。
共産党員であり、民衆を賛美する絵を描いたレジェは、比較的取り上げやすい画家ではあったろう。とはいえ、展覧会の実現には様々なハードルがあったに違いない。69年、その功績をたたえるように、開催に協力した南仏のレジェ美術館が本作品を寄贈した。
鴻野さんによれば、あるジャーナリストは少年時代、真冬に4時間待ってこの展覧会に入場したという。プロパガンダ風の社会主義リアリズムとは異なる、自由でユーモラスな精神。レジェの楽天的で明るい作品は当時のロシアの人々には太陽のようにまぶしく感じられたかもしれない。9月16日まで。
2013年7月17日付朝刊「イベントAsahi」掲載