わたしと星野道夫さん

第1回

ナレーター、磯部弘さん

磯部弘さん

いそべ・ひろし 1961年、東京都出身。

80年に劇団「東京キッドブラザース」に入団。近年はテレビ・ラジオ番組やCMなど幅広いジャンルで、ナレーターとして活躍する。

11月22、23日に東京都で朗読舞台「星野道夫×磯部弘 悠久の自然 アラスカ」を開く。
詳細は(http://www.isobe-soundscape.com/

 今年11月に星野さんの写真をスクリーンに投影して、エッセーを朗読する舞台をします。長年温めていた企画です。

 私は19年前に司会をしていたCSの自然番組で、星野さんのお名前を知りました。1998年に松屋銀座であった星野さんの写真展「星野道夫の世界」を観にいきました。

 まず写真に衝撃を受けました。星野さんがまるで自然の一部になって撮っていて、風景にも動物にも寄り添っているのが感じられました。

 それから何冊ものエッセーを手に取りました。「旅をする木」、「長い旅の途上」(文春文庫)、「イニュニック[生命]」、「ノーザンライツ」(新潮文庫)、「アラスカ 風のような物語」(小学館文庫)。内容がとても深くて、スケールが壮大で、一回読んだだけでは掴みきれませんでした。1つのエッセーでも、数行進んだらまた戻るというように、何度も何度も戻りながら読んでいきました。難しい文章ではなく、さりげなく書かれている一言がとても深く、ゆっくりと読んでいくと、星野さんの言葉がしみじみと心に入ってきます。当時から仲間に「この本はとてもいいからぜひ読んでごらん。自然が好きだったらぜひ。でも、とても深いので、何度も戻ってゆっくり読んで」と勧めていました。

 自分がナレーターのキャリアを積んでいく中で、いつか星野さんの言葉を読んで伝えたいとずっと思っていました。

 2012年、東京の六本木ミッドタウンのフジフイルムスクエアで大々的に開かれた写真展「星野道夫 悠久の時を旅する」に足を運びました。写真についたキャプションを読んだときに、「今だったら星野さんの言葉を伝えられる」という思いを強く抱きました。

 一番印象に残っている言葉は、
「無窮の彼方へ流れゆく時を、めぐる季節で確かに感じることができる。自然とは、何と粋なはからいをするのだろうと思います。一年に一度、名残惜しく過ぎてゆくものに、この世で何度めぐり合えるのか。その回数をかぞえるほど、人の一生の短さを知ることはないのかもしれません」(文春文庫「旅をする木」から)です。

 19年間、星野さんのエッセーをずっと読んできて、星野さんから自然観や人生観にかなり影響受けてきました。

 人間の一生がいかに短いものなのか、ある日突然断ち切られるものなのか。自分の持ち時間を本当に有益に使っているのか、という星野さんの問いかけを感じて、生きるパワーに転換してきました。

 語り手としてキャリアを積み上げた今、僕が影響を受けてきた言葉と写真を、舞台を通じてお客様に伝えることで、何かを感じていただき、少しでも励みになれたら嬉しいです。

 今回の朗読舞台のために、作曲家の中島まさるさんには、とても素晴らしい曲を20曲近く作っていただきました。星野さんに影響を受けてアラスカに向かった写真家・松本紀生さんの満天の星空の写真も使わせていただきます。

 舞台のテーマは「想像力の旅」。お客様が受け身ではなく、それぞれの想像力の中で能動的に何かを感じ取っていただける舞台にしたいです。

 僕は今54歳ですが、この年齢になったからこそより深く感じられる星野さんの言葉がたくさんあります。その言葉を多くの人たちに伝えたい。星野さんの珠玉の言葉たちを、しっかりと責任を持って語りたいです。

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