生誕100周年 トーベ・ヤンソン展〜ムーミンと生きる〜

みどころと作品紹介

トーベ・ヤンソン 撮影:ペル・ウロフ・ヤンソン
1960年代終わり〜1970年代初頭

トーベ・ヤンソンのふるさと、ヘルシンキにあるフィンランド国立アテネウム美術館で大好評を博した展覧会が再構成され、日本にやってきます。


ムーミンの作者として知られるトーベ・ヤンソンですが、その活動は多岐にわたっていました。本展では幼少期の素描から、15歳でデビューをした政治風刺雑誌「ガルム」の挿絵、自画像や風景画、ムーミン物語の挿絵や創作の過程がわかる多数の習作、児童文学の挿絵など約400点を紹介して、トーベの創作活動の全貌に迫ります。


トーベは1964年に、クルーヴハルという小さな島を借り受け、ひと部屋だけの小屋を建てて、パートナーのトゥーリッキ・ピエティラとともに91年までほぼ毎夏を過ごしました。本展では「夏の家」と呼ばれるこの小屋の再現も展示します。


展示構成と作品紹介

1章 芸術家への道 Aspiring Artist

 1914年、トーベ・ヤンソンは彫刻家の父と挿絵画家の母の間に、ヘルシンキで生まれました。幼い頃から、画家になりたいと思っていたトーベは、ストックホルムの芸術大学や、ヘルシンキのアテネウム美術学校で絵画を学びました。当時の作品からは、彼女が物語性に富んだ絵画に関心をもっていたことや、線の使い方のすばらしさ、色使いの豊かさを見ることができます。国内でのグループ展にも度々出品、有望な若手芸術家に与えられるダカット金貨賞を1938年に受賞するなど、画家として高い評価を得るようになっていきました。


© Tove Jansson Estate

トーベ・ヤンソン 《神秘的な風景》 フィンランド国立アテネウム美術館 1930年代


トーベ・ヤンソン 《木の根元で眠る者たち》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1930年代


トーベ・ヤンソン 《冬の夜の狼たち》 ロユリュポイカ・アウテリネンコレクション 1930年代


トーベ・ヤンソン 《親愛なるトリンカへ 自画像》 個人蔵 1939年


トーベ・ヤンソン 《青いヒヤシンス》 個人蔵 1939年


トーベ・ヤンソン 《自画像、煙草を吸う娘》 個人蔵 1940年

2章 戦争と青春 War Time and Youth

 トーベは第二次世界大戦中も熱心に創作活動に取り組み、1943年には初個展を開催します。また、雑誌や新聞、特にスウェーデン語系の政治風刺雑誌「ガルム」に、多くの挿絵を寄せました。そして、「ガルム」の挿絵などにサインのかわりとして度々描いていたキャラクターに、ムーミントロールと名付けて主人公とした物語『小さなトロールと大きな洪水』を1945年に出版します。ムーミン物語の執筆で多忙になりながらも、1955年には9年ぶりに3回目の個展を開催するなど、絵画制作にも力を注ぎました。


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トーベ・ヤンソン 《二次会》 個人蔵 1941年


トーベ・ヤンソン 《家族》 個人蔵 1942年


トーベ・ヤンソン 《山猫の毛皮をまとった自画像》 個人蔵 1942年


トーベ・ヤンソン 《ゴム農園》 個人蔵 1942年


トーベ・ヤンソン 《庭》 個人蔵 1943年


トーベ・ヤンソン 《「ガルム」1944年10月号表紙》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1944年


トーベ・ヤンソン 《「ガルム」1945年1月号表紙》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1945年

3章 ムーミン(1945-59年) The Moomins (1945-59)

 10代の頃、弟との口げんかに負けて壁に描いた鼻の大きな生き物「スノーク」や、叔父から聞かされた「ムーミントロール」というおばけの話などが元になり、ムーミンは形成されていったようです。初期のムーミンは鼻が長くやや細身でした。

 ムーミン物語は全9作、1940年代、1950年代にはそれぞれ3作が出版されています。ムーミン一家とその仲間たちの物語では、表現力豊かな線描、水彩、グワッシュ(不透明水彩)、スクラッチボードなどの技法を駆使した挿絵が、物語に匹敵する魅力を放っています。1954年にはイギリスの新聞「イヴニング・ニューズ」で連載マンガがスタート(トーベによる連載は1959年まで。1960年から75年までは弟のラルスが制作)。連載マンガは大好評を博し、トーベの名は一躍世界に知られるようになります。


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トーベ・ヤンソン 《「ムーミン谷の彗星」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1946年


トーベ・ヤンソン 《「たのしいムーミン一家」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1948年


トーベ・ヤンソン 《「ムーミン谷の夏まつり」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1954年


トーベ・ヤンソン 《「ムーミン谷の夏まつり」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1954年


トーベ・ヤンソン 《「ムーミン谷の夏まつり」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1954年


トーベ・ヤンソン 《「ムーミン谷の冬」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1957年


トーベ・ヤンソン 《「ムーミン谷の冬」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1957年


トーベ・ヤンソン 《「ムーミン谷の冬」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1957年


トーベ・ヤンソン 《「ムーミン谷の冬」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1957年

4章 画家として As a Painter

 ムーミンの連載マンガが終了した1960年代には絵画に専念し、グループ展や個展で頻繁に作品を発表しています。トーベもこの頃になると、抽象による表現にも挑戦するようになり、フィンランド湾の群島や大海原など、自然の姿を抽象的に構成し、描いています。1970年代以降は、その多才さゆえに、絵画だけに集中することはできまなくなっていきましたが、1975年制作の《自画像》は、表現力あふれる力強い筆使いから、トーベの最高傑作のひとつに挙げられています。同時期に制作された《グラフィック・アーティスト》はトーベと後半生をともに過ごしたトゥーリッキ・ピエティラを描いたものです。


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トーベ・ヤンソン 《風化》 タンペレ市立美術館 1965年


トーベ・ヤンソン 《グラフィック・アーティスト》 個人蔵 1975年


トーベ・ヤンソン 《自画像》 個人蔵 1975年

5章 ムーミン(1960年以降) The Moomins (after 1960)

 1960年代にはムーミン絵本第2作『さびしがりやのクニット』、第7作『ムーミン谷の仲間たち』、父ヴィクトルに対する思いから生まれた第8作『ムーミンパパ海へいく』が出版されました。そして、最愛の母ハムが死去した1970年に、最後のムーミン物語となる『ムーミン谷の十一月』を出版します。その頃から、大人向けの小説に力を注ぐようになったトーベでしたが、1977年には絵本『ムーミン谷へのふしぎな旅』で、久しぶりにムーミンの世界を描きました。これがトーベが絵と文の両方を手がけた最後の絵本になりました。

 1976年からはトゥーリッキらとともにムーミン屋敷の模型制作にとりかかります。2人はその後もこの「趣味」に力を注ぎ、合計41点の立体模型を制作しました。


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トーベ・ヤンソン 《「ムーミンパパ海へいく」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1965年


トーベ・ヤンソン 《「ムーミンパパ海へいく」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1965年


トーベ・ヤンソン 《絵本「ムーミン谷へのふしぎな旅」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1977年


トゥーリッキ・ピエティラ 《「ムーミン谷の冬」より春》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1989年

6章 広がる創作の世界 Various Other Works

 トーベは、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』や、J.R.R.トールキンの『ホビットの冒険』の挿絵なども手掛けました。トーベはフィンランド各地の公共施設の壁画を数多く制作し、子ども向けのスペースにも、ムーミンのキャラクターたちが度々登場しています。世界的な人気者となったムーミンは、その後も演劇、映画、テレビなど様々な舞台で活躍しました。ムーミン一家は、その誕生から現在に至るまで、世界中で愛され続けています。


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トーベ・ヤンソン 《「不思議の国のアリス」表紙》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1966年


トーベ・ヤンソン 《「不思議の国のアリス」挿絵》 タンペレ市立美術館 ムーミン谷博物館 1966年


トーベ・ヤンソン 《滞在(ヴィヴェカとトーベ)》 個人蔵 1940年代

夏の家

 1964年、トーベはヘルシンキから50キロほど離れたペッリンゲ群島沖のクルーヴハルを借りて小屋を建て、1965年から1991年まで、トゥーリッキとともにほぼ毎夏をこの島で過ごしました。「夏の家」とも呼ばれるこの小屋は、ひと部屋だけの質素な建物です。島は小さく荒涼とし、天候は時に厳しく、風の状態によっては岸に上がることもできませんでしたが、ふたりは島での暮らしを愛しました。


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クルーヴ島で、ボートを岸に寄せるトーベとトゥーリッキ 撮影:ペル・ウロフ・ヤンソン 1970年


クルーヴ島の「夏の家」と海水浴をするトーベ 撮影:ペル・ウロフ・ヤンソン


トーベ・ヤンソン 撮影:ペル・ウロフ・ヤンソン


クルーヴ島 撮影:ペル・ウロフ・ヤンソン


「夏の家」(再現) 撮影:光齋昇馬 提供:ギャラリーエークワッド