会場入り口の自然染色したトンネル
唐組みのタペストリーとドレス
24金の線を組んだドレス
糸から布、染料に至るまで廃棄物を極力出さない創作「テキスタイルゼロ」を目指す自然染織家の作品展が、神戸市東灘区の神戸ファッション美術館で開かれている。自然素材と伝統技術を再構成することで生み出された布は、新鮮で力強い存在感を帯びていた。デザインによってどう生かすかは課題だが、ハイテク素材とは異なるテキスタイルの新しい可能性が示されている。
「いのちのいろどり〜自然染織家・伊豆蔵明彦の仕事〜」展と題された会場の入り口には、揺らめくような布のトンネルが待っていた。素朴な茜(あかね)や黄色の色彩と独特の弾力性が、不思議な安らぎを感じさせる。横糸に円運動をとりいれて糸をからませる円筒織という手法が、布に動きを与えるのだという。
法隆寺に保存されていたといわれる古い布にヒントを得た唐(から)組みの布は、糸の流れが交差するときに大小の穴ができる。その穴に首や腕を通せば、どこも裁断せずに服になる。えりぐりとなって広がった穴に向かう糸の流れは、1枚の布とは思えないほど複雑で繊細な表情を見せる。
マネキンに着せた優雅なドレープのドレスもあった。生地の目を斜めに使った美しいドレスを縫い合わせるためには高度な縫製技術が必要なのだが、伊豆蔵のドレスには縫い目がない。旧石器時代の漁網から発想したというネット地は、その自在な弾力性で人の体や意向に沿って様々な形になる。子供から大人までが着られるユニバーサルな服作りに道を開く可能性もある。
宝飾メーカーの田中貴金属ジュエリーに依頼されて、24金の線を古式の方法で織った極薄のドレスも。金属製にもかかわらず、ふわりとして実にしなやかだ。
京都・西陣の手織り帯屋の2代目として生まれた伊豆蔵は、「技法の研究は、徐々に機械や道具を捨てて昔に帰る作業だった」と語る。住まいに近い京都の森で草木や虫の死骸(しがい)を採って染料を作り、最後の一滴まで捨てない溜(た)め染め式で布を染める。冬の日本海の荒波を利用して布をからめたり、クヌギの木の破片を雨水で染色したりした。
展覧会を企画した同美術館の百々徹学芸員は「作られた布がそのまま服になるという自由度は、衣服と人の付き合いを根本から再考する機会になるのでは」と語っている。
新しい社会生活像を希求しながら、伝統に根ざしたその場でしか出来ないものづくりをする。伊豆蔵の仕事には、そんな次代の視点がある。(編集委員・高橋牧子)
▽13日まで。