パリ・オートクチュール(高級注文服)に、再生の兆しが確実に見えてきた。高騰する原油で潤う中東やロシア、好況のインドなど、新しい顧客が増えてビッグブランドが勢いを取り戻し、若手ブランドも数多い。6月30日から4日間、パリで開かれた08年秋冬コレクションでは、新富裕層に向けた上品なジャケットスタイルや若々しいミニドレスなど、分かりやすくシンプルな服が多く見られた。(編集委員・高橋牧子)
●新富裕層狙い 上品・シンプル
会場の客席は約4分の1が中東やインド方面からだろう。近年、彼らの占める比率は高まるばかりだ。ただ大方が、誰もが知るブランドバッグや、大ぶりの宝石のクラシックなイヤリングで、定石の装い。まだまだ「冒険」に慣れてはいない印象だ。
ここでクリスチャン・ディオールは、前シーズンよりさらに奇抜さを抑え、シックなスーツやジャケットをずらりとそろえた。
スタイルの基本は、1947年に発表されたディオールの原点といわれる「ニュールック」だ。大きな襟がふわりと首を取り巻くカシミヤジャケットと、腰から優雅に張り出すフレアスカート。しかし、ワニ革と透ける素材を併用した大胆な対比などに、はっとさせる現代性がある。また、日差しの具合で時に輝く、水滴のようなビーズ刺繍(ししゅう)など、細部のさりげないところに、オートクチュールの技の奥深さを思わせた。
ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェも、汎用性のあるジャケットスタイルを前面に出した。極薄の革ジャケットがモデルの肩甲骨の美しさをなぞり、細身のボトムへと続く。形は都会的で、色は優しいパウダーピンクだ。シャネルは円柱をモチーフにしたチャーミングなスーツやドレスを並べた。
老舗(しにせ)ブランドが若手の人気デザイナーを登用したことも、オートクチュールを活気づけた。33歳のリカルド・ティッシによるジバンシィは、編み込みニットのカジュアルな若々しさが際立った。
アレッサンドラ・ファッキネッティが初めて手がけたヴァレンティノは、お花畑を思わせる、繊細でロマンチックなミニドレスが圧巻だった。36歳の女性デザイナーの感性と、優れた職人の技量が、上質なみずみずしさを生んだ。
参加ブランドの数は約40。業界団体が認めた公式参加分以外も含むが、ほぼ前回並みの数だった。
プレタポルテ(既製服)でも、手仕事を生かした作風の若手ブランドが協会に招待されて、生きのいい作品を見せた。中でもベルギー出身のキャシー・ピルや、日本のアパレルが支援するジャンポール・ノットが光った。中国から来たウーヨンは、公園で簡素な手織り布の服を着せた約40人の素人モデルに瞑想(めいそう)のような舞をさせた。
一着数百万円から数千万円のオートクチュールブランドの土俵に、プレタポルテが一緒に上がるのはおかしいという批判もある。しかし、クチュール協会のディディエ・グランバック会長は「モードとアート、既製服と注文服の境があいまいになる中で、パリ・オートクチュールはそれらをミックスした新しい形を目指したい」と話し、プレタポルテの枠を、なお広げる意向だ。
期間中、ほんのひと月前に死去したイヴ・サンローランについては、オマージュは見られず、特に話題にも上らなかった。それが新時代の始まりということなのかもしれない。
◇写真は大原広和氏撮影