左:プラダ/右:グッチ
左:ジル・サンダー/右:ボッテガ・ヴェネタ
ジョルジオ・アルマーニ
9月27日までイタリアで開かれた09年春夏ミラノ・コレクションは、深刻さを増す世界経済を反映してか、よりいっそう実用的でシンプルな服が主流になった。一見楽しそうで軽やかな透明感、オーガニックな色使いなどが今季の特徴だ。しかしそこには、低迷する需要への刺激はあまり感じられず、むしろ、重い現実から逃避しようとする、デザイナーたちの浮遊感とも言うべきものが印象に残った。(編集委員・高橋牧子)
米国の金融危機の余波はミラノのファッションブランドにとっても「もう止めようがない」という見方が大勢を占める。「今後は品質重視。ベーシックなデザインを」「発展途上のアジア市場へのシフトを強めたい」といった声をよく聞く。
実際のショーでも、これほど基本的なスタイルの服が多かったことは記憶に無い。春夏物なのに、色もくすんだアースカラーが中心。地味な服を補うように、モデルたちは15センチものハイヒールを履き、それで舞台でつまずいたり転んだりする姿が続出。ファッションブランドと市場の関係を暗示しているようで、会場の苦笑を誘った。
この秋の華麗なボヘミアンスタイルの流行を引っ張ったグッチも、今回はぐっと控えめ。シンプルなパンツスタイルや、ミニ丈のリゾートドレスだけの構成で、素材は高級なストレッチ入りのあや織り地などだが、いつものように凝ってはいない。とはいえ、ターコイズブルーなどのきれいな色目や、サファリルックのジャケットとトロピカル柄のシャツの組み合わせに華やぎがあった。
プラダは、単一の生地だけでショーを構成した。主役は、体に沿わせて自由に形を作ることができるメタリックな糸を使った生地。しわしわだが端正な仕立ての細身のスーツは、仕事着にも十分つかえそうだ。あえて単純さを極めることで、現実のもどかしさや複雑さを揶揄(やゆ)しているようにも見えた。
丹念な手仕事が特徴のボッテガ・ヴェネタも、今回は奇をてらわない穏やかなドレススタイル。極薄の革を張り合わせて体から少し浮かせ、生地を染めたり焼いたりして微妙な陰影や張りを出した。「体と対話するような、緩やかな構造を目指した」とデザイナー。
ジル・サンダーはアフリカ調のフリンジを多用しながらも、端正でミニマルなスーツを見せた。ジョルジオ・アルマーニは「着る喜びを再び感じてもらいたい」と、小粋でフェミニンなジャケットスタイルをそろえた。
こうした中で、ドルチェ&ガッバーナはファッションの享楽性をあえて強調して見せた。男物のパジャマと重厚なバロックの要素をミックスしたスタイルで、肩がネズミの耳のように丸く膨れている。「こんな時だからこそ、ファッションで夢を見てもいいのでは」とデザイナー。
サルヴァトーレ・フェラガモのデザイナー、クリスティーナ・オルティスの仕事も印象的。「今はまるで戦時のような非常事態。すぐに着られる日常着と、見るだけで幸せになるような夢の服の二段構えでいくしかない」と語っていた。
◇写真はいずれも大原広和氏撮影