終わりの始まり。あるいは、新時代の息吹か。5日までの9日間、フランスで開かれた09年春夏パリ・コレクションは、優しげで実用的な自然派スタイルを打ち出した。そうした中で、別れや再出発のイメージを強く感じさせたショーが多い。世界的な金融不安や地球環境問題が本格化した今、拡大路線をひた走ってきた20世紀型ファッションのシステムに、デザイナー自身が幕引きのサインを出しているようにも見えた。(編集委員・高橋牧子)
アレキサンダー・マックイーンのショー会場は、ノアの箱舟を思わせた。回る地球の映像を背景に、本物そっくりの白クマやキリン、ゾウからネズミまで約30種の動物模型が、船のブリッジふうのランウエーに陣取る。破壊音や叫び声、太古の民謡のようなつぶやきが交差する中、骨や歯車、木目や銃弾、生花などをあしらった不気味な柄が次々登場した。といっても、服そのものはシルクサテンのミニドレスなどが中心で、優美に映った
テーマは「私たちが、地球にしたこと」。フィナーレでは、地球の映像が細胞分裂の様子に変わった。もう最後の脱出の機会だということなのか。デザイナーがウサギの着ぐるみ姿でふざけて登場したのは、深刻なメッセージへの照れ隠しのように感じられた。
いつも新しいトレンドを打ち出すルイ・ヴィトンは、今回は遺産として後世に託したくなるような手の込んだ服を見せた。エディット・ピアフが切々と歌う「バラ色の人生」などが流れ、いかにもパリ風のシックな配色のジャケットやミニスカートが並んだ。印象は地味だが、根付けを下げた錦織りの帯やアフリカ調のアクセサリー、縫いつけた色石など、細部は東と西、北と南の工芸を融合した驚くほど凝ったものだった。
ニナ・リッチは、後ろに床まで裾(すそ)を引く繊細なレースなどのドレスだけでショーを構成した。日常着にはなりそうにないが、下着を思わせる退廃的な美しさには息をのむほどの迫力があった。
ランバンは、きれいな色のサテンのドレスなど得意のスタイルだが、胸元には熟練した手作業でしか作れない微妙なドレープを飾った。「本物や本質とは何かを考えた結果」とデザイナー。
ヨウジヤマモトのテーマは「お葬式」。布が流れる羽織や紋付き風のジャケットと、わずかに透けるロングスカート。色は黒。「喪服には究極の上品さとエロチシズムが同居する」と山本耀司は言う。また、コムデギャルソンは「明日の黒」と題して、80年代に世界を震撼(しんかん)させた黒に立ち返りながら、六角形の布をはぎ合わせた立体的な新しいフォルムを作った。
パリの新しいエレガンスの代表として人気上昇中のイヴ・サンローランは、今回は股上の深いサルエルパンツが特徴。羽織ジャケットに小紋柄。売れ筋を狙わず、あえて誰にでも似合いそうではない服で、冒険する気概を感じさせた。
高橋盾が手がけるアンダーカバーは、展覧会形式で、服と手作りのぬいぐるみ、ファッション写真を見せた。凝ったSF調の写真は、CGは使わず実際にクレーンで木をつり上げたり、5メートルの高さの人形用ドレスを作ったりして仕上げた。「窮屈な時代なので、自分が楽しめることを優先した。これはリスタート」と高橋。もっと自由な発想で表現できる場を探したいとの理由で、次回以後はパリ・コレ参加を見送る意向を示した。
クリスチャン・ディオールを手がけるジョン・ガリアーノは、彼自身のブランドとの双方で典型的なフェミニンなスーツやドレスをそろえた。きれいだが、いつもの前衛派とはまるで違う平凡な印象。「顧客の好みを熟知して反映させた」という。時代の風に敏感だからこそ、今回は新しいデザインを拒否したのかもしれない。
◇写真はすべて大原広和氏撮影