サンドラ・マレーの作品=東京都渋谷区
デザインタイドトーキョーのメーン会場=東京都港区
鍵がないのに開かないドア「ステレオタイプ」を製作した山本和豊
トヨタのiQとソマルタが協業したコンセプトカー=東京都新宿区で
東京の秋を彩る二つのデザインイベント「東京デザイナーズウィーク(TDW)」と「デザインタイドトーキョー」が今年も10月末から開かれた。目を引いたのは、量産のツールでもあるデザインが、職人仕事の伝統技法と“協業”する取り組みだ。(菅野俊秀)
インテリアを中心としたTDWは今年で23回目。神宮外苑に張った三つの巨大テントの主会場には、国内外300以上のデザイナーや企業、大学などが参加しのべ約7万5千人が来場。4回目のデザインタイドは東京ミッドタウンを会場に10カ国49組が出展、約3万2千人を集めた合同展だ。
■伝統に付加価値
表参道ヒルズでは、英・スコットランドのデザイナーたちが地元の伝統素材を用いた服を発表した。
ヘブリディーズ諸島出身のサンドラ・マレーは、エリザベス女王の服も手がけた注文服職人として30年のキャリアを持ち、05年に自身のブランドを立ち上げた。地元で織られるツイードを使うことについて「伝統の技が生むツイードは、スコットランドの自然の色を映す。それは単なる毛織物ではなく、私のルーツを伝えるもの」と話す。
TDWの主会場で1日に開かれた「世界デザイン編集長会議」。3回目となる今年のテーマは「デザインと匠(たくみ)の技」だ。英国のデザインサイトのマーカス・フェアーズ編集長が、各地で伝統工芸がデザイナーによって「造りかえられる」事例を報告。オランダの女性デザイナー、ヘラ・ヨンゲリウスが日本の尾張七宝の技法で、銅の素地を残しながら鳥や花をつややかに焼き付けたプレートを「ショッキングなほど斬新だ」と紹介し、「デザインは伝統工芸によって強化される」と問題提起した。
仏デザイン誌のシャンタル・アメイデ編集長も、250年以上の歴史を誇る仏国立セーブル製陶所が現代のデザイナーによる新しい形の花瓶を製作したことを示し、「職人の伝統技術はデザイナーによって付加価値がつく」。プロダクトデザイナー喜多俊之は「工業デザインに匠の心を込め、未来に持って行くことが我々デザイナーの仕事ではないか」と締めくくった。
■日蓮宗が初出展
伝統仏教のひとつ、日蓮宗はTDWに初出展し注目を集めた。ブースは貨物用コンテナ。アートディレクター浅葉克己がプロデュースし、中では香がたかれ経が流れる。壁には「立正安国論」。ハスのドライフラワーの奥に、緑の光の中で日蓮の木像が浮かぶ。
日蓮宗宗務院の太田順祥情報課長は「生きる知恵である仏教の心を、デザインの力で伝えたかった。若い人には新鮮だったのでしょう」。予想を超え、5日間で1万5千人が訪れた。
デザインタイドではあるドアの前に行列ができた。商業空間などを手がける山本和豊の作品。鍵はないのに押しても引いてもドアは開かない。だが発想を変えると簡単に開く。「開けようとした瞬間、ドアに鍵をかける『固定概念』をデザインした」と山本はいう。
6日に今年度のグッドデザイン大賞に選ばれたトヨタのiQと、東京コレクションのブランド・ソマルタ(廣川玉枝)が協業したコンセプトカーも展示された。面によって塗装の種類を変えることで、ハイテクを集めた超小型ボディーが街や自然に映え、溶け込む。部分的な塗り分けには熟練の技が必要という。
伝承される職人技と、更新される科学技術。二つの“ハイテク”を、デザインが結んでいく。そこにデザインの未来があると感じた。