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伝統の手仕事で「型破り」 09秋冬パリ・オートクチュール

2009年7月21日10時55分

写真:クリスチャン・ディオール拡大クリスチャン・ディオール

写真:シャネル拡大シャネル

写真:ヴァレンティノ拡大ヴァレンティノ

写真:ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェ拡大ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェ

写真:アレキサンドル・マチュー拡大アレキサンドル・マチュー

写真:クリスチャン・ラクロワ拡大クリスチャン・ラクロワ

写真:ジバンシィ拡大ジバンシィ

 オートクチュール(高級注文服)にこそ新たな創造性を――。6日から3日間、フランスで開かれた09年秋冬パリ・オートクチュールコレクションは、ここ数年続いた汎用性のある無難なデザインから脱して、高度な伝統技を新たな表現に生かそうとする意欲的な試みが目立った。経済危機の高級品市場直撃による影響でショーの規模や観客の縮小傾向は加速したものの、手仕事の技を重視する若手デザイナーの参加は増加。世界的な知的財産としてのパリ・クチュールの価値を継承しようとの熱が感じられた。(編集委員・高橋牧子 写真・大原広和氏)

 大会場でいつもスペクタクルな演出を展開してきたクリスチャン・ディオールが、今回は打って変わってこぢんまりしたショーを開いた。会場は、モンテーニュ通りのディオール店のサロン。往年の老舗(しにせ)メゾンの方式だが、作品の中身は過激だった。なにしろ服は半分しかなくて、あとは下着のままなのだから。

 このブランド伝統のスミレ色やフクシャピンクの優雅なジャケットの下は、肌色のガードルとガーターベルトだけ。羽や細かいビーズ刺繍(ししゅう)で飾った美しいドレープのスカートも、上半身はありふれた肌色のブラジャー。グレース・ケリー王妃らかつての顧客をしのばせる華やかな50〜60年代スタイルの服が、こんな毒のある着方や新しいカッティングによって全く違う鋭い表情を見せた。

 デザイナーのジョン・ガリアーノは「ムッシュー・ディオールは華麗なニュールックで戦後ファッションの扉を開けた。大不況のいまこそ、エレガンスを再発見させる創造性が必要だ」と語った。

 シャネルの「冒険」にもドキリとした。定番のツイードスーツや銀糸使いのボックスコート、布を複雑に巻いたイブニングドレスなどすべての服の背中から、ウエディングドレスの引き裾(すそ)のような長い布が垂れていたからだ。

 「過剰にならない程度の視覚的な変化を目指した」と手がけたカール・ラガーフェルド。印象が強めの民族柄とスパンコールやラメのきらめきのバランスにも、伝統に新たな現代性を与えようとする意欲がうかがえた。

 この1月にデザイナーが交代したヴァレンティノは、前回の正統派スタイルから一転。薄いレースやチュールを微妙に重ねたロマンチックな少女風スタイルで観客を驚かせた。腰のドレープに散らせた朝露のような玉刺繍、肩の手編みレースなど細部の手仕事は、触れると壊れてしまいそうなほどはかなく繊細だ。「今は変化の時代。型にはまらないことが最も大事」とデザイナーは語った。

 一見シンプルだが、織り方が想像できないほど複雑な布で上品なスーツを仕立てたジョルジオ・アルマーニ・プリヴェや、ボールペンのキャップや壊れた自転車の反射板を使って華麗なジャケットを作って見せたメゾン・マルタン・マルジェラの作品にも、前に進もうとする明確な意識が感じられた。

 「オートクチュール期間中の方がゆっくり見てもらえるから」と、10年ぶりにショーを行ったアレキサンドル・マチューや、アレクシス・マビーユなどプレタポルテのブランドの若々しい作りも新鮮に思えた。

 そうした中で、経営難に陥ったクリスチャン・ラクロワのショーが印象的だった。会場や刺繍、靴などは無償の支援。在庫の生地で作った服は、ラクロワらしい夢と細工に満ちていた。フランスの国民的デザイナーだが、ブランドの買い手が現れない限り最後のショーになるとあって、観客は作品の1点ずつに惜しみない拍手を送った。

 会場を提供した装飾美術館のオリビエ・サイヤー学芸員は「パリ・クチュールのぜいたくさはファッションにとってなくしてはならない灯だから」と語った。元スーパーモデルのイネス・ドゥ・ラ・フレサンジュは「モード界の人はみな、ひとごとじゃないと思ってる」と顔を曇らせた。

 今回は招待デザイナーを含めて23ブランドが公式日程で新作を発表し、他に30近くのプレタポルテの若手やジュエリーの新作発表などが集中、プレタポルテのコレクションに負けない活気があった。パリ・クチュール協会のディディエ・グランバック会長は「ファストファッション人気の反動で高級な手仕事がまた注目され始め、市場はむしろ広がってきた。オートクチュールは、フランスというよりも世界の宝として再認識されつつある」と語った。

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