2009年11月16日11時30分
世界的なデザイナーの中でも、とりわけ鋭い時代感覚でファッションの流れをリードしてきたトム・フォードとアルベール・エルバスが、10月下旬に相次いで来日した。フォードはグッチを退いた後、自らのブランドで「真のラグジュアリー」を目指し、最近は映画も監督し評価を得ている。一方エルバスは、フランスの老舗(しにせ)ランバンをハイブランドとして復活させた。そんな2人に、「ファッションの今」を聞いた。
■自分を知って 幸せ見つける
――初監督した「シングル・マン」で主役のコリン・ファースが、今年のベネチア国際映画祭で主演男優賞を受賞。なぜ映画も手がけようと?
ファッションの世界は究極的には、営利主義のビジネス。芸術的な素晴らしい服もあるけれど、私の場合は見た目が美しくて着やすく、売れる物を作ってきた。その仕事自体はとても好きなのですが、もっと純粋にただ何か大事なことを伝えるためだけの作品づくりもしたくなって。それが映画だったのです。
――4年前、自身のブランドを立ち上げましたね。
グッチを辞める頃、会社が大手流通グループに買収されて、クリエーションを含めた様々なことがもはや私個人ではコントロールできなくなっていた。退職して少し気落ちした時期に、アクセシブル(手の届く)ラグジュアリーのブランドがたくさん出てきた。しかし、人々はもっと本当のぜいたく、それはたとえば美しくて高品質で、個人的なものを求めていると感じた。それで、本物の最高級と思われるような紳士服を作り始めました。
――90年代と比べて、ファッションはどう変わったと思いますか。
あまりにも商業的になり過ぎて、ファッションではもう何かを伝えたり表現したりしにくい時代になってしまった。そうはいっても、生活の中で美的で、着て楽しい物があってもいい。そんな存在なのだと思う。
――映画は映像が美しくまた、何かほっと救われたような気もしました。
人生にとって大事なことは、案外たわいのない日常の中にあるということを伝えたかった。仕事漬けになったり高級車を買ったりすることではなく、大好きな人と背中合わせで本を読んだり、犬にキスしたりする瞬間。明日つけるカフスボタンを吟味する時間。そんなごく小さなことが実は大きな幸せであり、それは自分自身をよく知ることで見つけられるのです。(編集委員・高橋牧子)
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61年、米テキサス州生まれ。90年グッチに入社。94年にクリエーティブディレクターに就任、10年間で売り上げを13倍に伸ばした。