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2010春夏パリ・オートクチュールコレクション 手技の美 工芸品の域

2010年2月19日11時22分

写真:シャネル拡大シャネル

写真:ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェ拡大ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェ

写真:ヴァレンティノ拡大ヴァレンティノ

写真:ジャンポール・ゴルチエ拡大ジャンポール・ゴルチエ

写真:クリスチャン・ディオール拡大クリスチャン・ディオール

写真:マウリツィオ・ガランテは、デザイナー本人(左)が舞台で作品を着せた=ショーの写真はいずれも大原広和氏撮影拡大マウリツィオ・ガランテは、デザイナー本人(左)が舞台で作品を着せた=ショーの写真はいずれも大原広和氏撮影

 手の技の美しさ。それが新しい。1月末にフランスで開かれた2010年春夏パリ・オートクチュールコレクションでは、低価格や簡素化が進む既製服とは改めて一線を画した、熟練の伝統技で細部まで手の込んだ美術工芸品のような逸品が並んだ。今回から五つの仏高級宝飾ブランドが参加。中国など新興市場の景気回復や欧米の底打ち感も受けてか、手技の価値を積極的に打ち出す提案が目立った。

 外気は零下だが、シャネルははっとするほど手の込んだロマンチックな作品で、観客の心に灯をともした。白壁の会場を照らすのは、虹を思わせるパステルカラーの蛍光灯。服も淡くかすんだアイスピンクやレモン色だ。

 しかしよく目を凝らすと、かれんなミニ丈のツイードスーツにはとてもシャープなグラフィック柄が生地と同色で刺繍(ししゅう)されている。複雑な地模様の薄地レースには、きらめくビジュー飾りの粒。サテンのマーメードドレスには肩ひも代わりに銀細工ふうの鎖が施されていた。

 伝統技術の尊さ、人間の手仕事の芸術性を小さな服に込めて、ひとつひとつの服が綿密で華麗なジュエリーのよう。涼しげな銀ラメ使いが甘さを適度に抑え、18世紀のウイッグか、はたまたミッキーマウスがヒントなのか、ほほ笑みを誘うヘア(日本の加茂克也が担当)が現代的な彩りを添えた。

 月をテーマに、幻想的な輝きを放つドレス、スーツをずらりと並べたのが、ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェだ。色はムーンホワイト。シルエットは三日月形にほっそりと長く、見たことのない極薄の生地が体に沿って、月影のようにゆらめく。

 幻想的といえば、世界で上映中の人気映画「アバター」を想起させる近未来的でファンタジックな作風も目立った。ヴァレンティノは、風に揺れる木のイラスト映像を背景に、花の精さながらのペールトーンのミニドレスをそろえた。デザイナーは「軽く、明るく、でも芯は強い現代女性が求めるのは、はかなく美しい宝物みたいな服だと思う」と話した。

 こうしたオーガニックな表現は現代社会ではもう欠かせない要素なのだろう。ジャンポール・ゴルチエも、ヤシの葉のような布を編んだドレスなど凝った手仕事を盛り込みながらも野性的な力強さを打ち出した。

 同じように、アマゾンで暮らす貴族の乗馬スタイルを見せたのはクリスチャン・ディオール。基本はブランドの原点であるニュールックだが、端正なライディングジャケットに、両脚をそろえて馬に横乗りする時のように大胆なひだを寄せたスカートを組み合わせた。

 このほか、ソプラノ歌手が1曲歌うごとにデザイナー自らが服を着替えさせたマウリツィオ・ガランテや、ビンテージのメンズシャツなどを解体してカクテルドレスに作り替えたアン・ヴァレリー・アッシュなど手仕事の妙を強調するブランドが多かった。

 メゾン・マルタン・マルジェラも、古着をリメークした夜のドレス。手間ひまかけた品ばかりだが、創始者がブランドから去ってデザインチームだけで手がけたせいか、独特のウイットやアイデア性は薄まり、精彩に欠けた。

 今回は1月24日からの5日間の公式日程で約20ブランドが参加し、他に約30ブランドが高級既製服の発表やイベントを行った。ここ数年で縮小されたショーの規模や参加数に大きな変動はない。しかし、若手のデビューに加えて、19世紀のオートクチュールの祖といわれるワースが新デザイナーにより復活するなど明るいニュースは多かった。

 オートクチュールは世界中のほんのひと握りの超富裕層しか買えないが、そこにはファッションの最先端の方向と服づくりの目標が掲げられる。鍛錬を続けた人間の心と手で作り上げた物の偉大さ。そんなメッセージを感じた。(編集委員・高橋牧子)

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