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優美と抑制 2極化 2010年秋冬パリ・コレクション

2010年3月19日10時43分

写真:ルイ・ヴィトン拡大ルイ・ヴィトン

写真:シャネル拡大シャネル

写真:ヴィクター&ロルフ拡大ヴィクター&ロルフ

写真:セリーヌ拡大セリーヌ

写真:エルメス拡大エルメス

写真:アレキサンダー・マックイーン拡大アレキサンダー・マックイーン

写真:コムデギャルソン拡大コムデギャルソン

 華やかなクラシックスタイルの復活と、装飾を抑えたミニマリズム。今月初旬に開かれた2010年秋冬パリ・コレクションは、カジュアルに大きく振れた前季の傾向に加えて、景気の底打ち感を先取りするかのようなぜいたくで上品なスタイルという2極化した潮流を見せた。高級ブランドの伝統や浮揚感、革新性などを強調すると同時に、ネット配信への積極的な姿勢や中国・インドなどの新興市場への強い働きかけが感じられた。

【フォトギャラリー】パリコレクションはこちら【ファッション・トレンドセミナー】2010年秋冬はこちら

■心躍るクラシック

 ルーブル美術館の中庭の大噴水を、ルイ・ヴィトンは透明テントで丸ごとくるんで会場に仕立てた。前回は都会の悪ガキ風のカジュアルスタイルを見せたが、今回は豪華でドラマチックな50年代スタイルをずらりとそろえた。

 ウエスト位置の高い小さなジャケットと大きくふくらんだフレアスカートは、第2次大戦後に女性たちをうっとりとさせたディオールのニュールックをしのばせる。胸とヒップを強調したおおげさなほどフェミニンな服を着たモデルたちは、すべて違う種類の精巧でチャーミングなバッグを抱えていた。

 デザイナーのマーク・ジェイコブスは「様々な年の女性が服やバッグを素直に楽しんで選んでいた頃の幸福感を再現してみたかった」と語る。一方、客席の中央には新興市場のターゲットを示すかのように、中国やインド、ロシアの女優らが陣取っていた。

 シャネルは歴史的建造物グランパレに、北欧から運んだ氷で本物の氷山を再現。ふわふわの毛皮をふんだんに差し込んだキュートなツイードスーツを並べた。生地は信じられないほど細密でぜいたく感に満ちているが、毛皮は実はフェイクという配慮も。服のラインは丸く柔らかくなり、氷のキューブや湯たんぽ型のバッグも楽しい。

 クリスチャン・ディオールやイヴ・サンローラン、ミュウミュウといった人気ブランドも、50〜70年代をベースにしたクラシック調だった。

 前回からデザイナーが交代して注目されるニナ・リッチは、ベル・エポック調の繊細で華麗な作風。「優美にファッションを楽しんでいた頃の雰囲気にひかれた」という。ヴィクター&ロルフはロシアの入れ子人形よろしく23通りの重ね着をデザイナー自らが脱ぎ着させて会場を沸かせた。

■厳格なミニマリズム

 一方で、前季から続くミニマリズムの流れもさらに広がった。そのリーダーともいえるセリーヌは、ビスコンティの映画や「昼顔」のヒロインの複雑な上品さをイメージした、紺のピーコートなどごくシンプルなミリタリースタイルを見せた。「簡潔かつ厳格であることを意識した。あまりに多くのモノや選択肢に囲まれる女性たちには、シンプルで明確なことが必要と思う」とデザイナー。

 映画「007」風の演出でシャープな黒革スーツを見せたエルメスや、黒に徹したランバンなどにも、装飾性への抑制と厳格な強さが感じられた。

■喪失超え前進

 今回は、90年代来の「鬼才」の不在を印象付けたシーズンでもあった。創始者が退いたマルタン・マルジェラ、常に話題を呼んだオリビエ・テイスケンスも活動休止中だ。そうした中で、2月に急逝したアレキサンダー・マックイーンの遺作16点は、まるで密葬のようにしめやかに、小会場で限られた観客に披露された。

 鎮魂歌が流れる中、ビザンチン美術と英国の彫刻家ギボンズの作品からヒントを得たという細密で荘厳な作品には、ボッシュやメムリンク、ボッティチェリらを思わせる宗教画や細密画が大きく描かれた。その背中や腕には、かよわいが今にも飛び立ちそうな天使の羽。綿密な金糸刺繍(ししゅう)や大胆で流麗なフォルム。そうした稀有(けう)な才能を失ったことが心から惜しまれる。

 しかし、結果的には喪失感や長引いた不況に萎縮(いしゅく)する気分を吹き飛ばす果敢な取り組みが目立った。中でもコムデギャルソン。自ら強くあれと願う気持ちを結晶させたような、内側からふくれるパッド入りドレスやスーツが心に残った。常に新しさを希求し前に進もうとすることこそが、ファッションの使命なのだ。(編集委員・高橋牧子)

 ◇アレキサンダー・マックイーンを除く写真は大原広和氏撮影

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