2010年7月12日10時51分
冒険より洗練を、主張よりは着やすさを――。先月開かれた2011年春夏のミラノ・メンズコレクションでは、強いデザインや色柄は少なく、堅いドレスアップでも緩い着崩しでもないところで、新しい着こなしを提案するブランドが多かった。(菅野俊秀)
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ミラノに先立ち、今年はピッティ・ウオモの期間中にフィレンツェで発表したジル・サンダーが異彩を放った。
小高い丘に立つ夕暮れの、かつての貴族の大邸宅で開かれたショーで見せたのは、ネオンカラーがはじける服の数々。軽い素材でコート、ジャケット、ショートパンツを組みあわせ、色とシルエットに意外なバランスを生み出した。マルチカラーのボーダー柄のニットや、花柄をコラージュしたプリントのシャツなども印象的だった。
フィレンツェで見たその鮮烈な色が、ミラノでは幻のように感じた。開幕を飾ったコルネリアーニは、空気、水、土、そして炎の4要素をモチーフにした、今季の色調を予感させるようなアースカラー。スエードのコートとスーツ、ニットやブルゾンなど、ショーの序盤は都会的な淡いベージュ系の服を続けて出した。
ドルチェ&ガッバーナは、今季もシチリアをテーマにし、その農民や漁師がまとうような素朴なベージュを多く使った。日に焼けて色あせたようなスーツ。前身頃のレザーに違う色の革ひもを編み込んだニット。官能的でリラックスした服をそろえた。
プラダとグッチのショーはともに、紺色のスーツで幕を開けた。前者は薄い綿のストレッチ素材を細身に仕立ててネクタイを締め、後者はシルクモヘアをデニム風に織った素材をダブルの上着にしてノーネクタイで袖をたくし上げる。またプラダが様々な仕事着をモチーフに、外科医の手術着のようなトップスにシャツやバッグを差し色に使えば、グッチはシルクのプリントシャツにスエードのショートパンツを合わせる。
90年代のミニマリズムを再解釈したというプラダと、世界中を飛び回る気取らないジェットセッターをイメージしたグッチ。クールで静謐(せいひつ)な空気と、エレガントな旅の雰囲気が好対照をなした。
プリントのシャツは、エトロも持ち味を発揮した。極薄の生地にペイズリーや花柄を大胆に施し、ショートパンツに合わせる。コートやジャケットを羽織れば、シャツが一層際立つ。
ジャケットでは、ボッテガ・ヴェネタのパズルのようなベージュのパッチワークの意匠が目を引いた。また、着丈の短いジャケットに黄色や緑の差し色を利かせ、こざっぱりと若返って見えたジョルジオ・アルマーニも新鮮だった。
デニムでは、ディースクエアードがスタイリッシュな着こなしを見せた。パンツにはぴんと折り目を付け、ダブルのジャケットを合わせてタイを締めれば、シャープなデニムの正装になる。
バーバリー・プローサムのテーマは「ヘリテージ・バイカー」。トレンチコートのストラップを革にしたり鋲(びょう)を打ったりして、ひざ当てがついたレザーパンツを合わせるなど、強めの味付けのコートスタイルで存在感を示した。
得意なアイテムやブランドの伝統を生かしながら、クリエーションとビジネスの接点を見定めようという動きが、続いている。