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再生の糸、一枚の布 三宅一生さん、秋に新シリーズ発表

2010年8月24日10時30分

写真:三宅一生さんの新シリーズ「132 5.」拡大三宅一生さんの新シリーズ「132 5.」

 デザイナーの三宅一生さん(72)が、自身の肩書に「ファッション」を冠することはない。もちろん活動の中核は世界的評価を得てきた衣服のデザインだが、その視線は広く遠く、ものづくりや社会のデザインに向けられているのだ。「再生・再創」をテーマに、この秋発表される新シリーズも、その延長上にある。

■前衛性と日本性と

 何枚もの紙を合わせて作った鍋敷きのような布。その一部を持ち上げるとちょうちんのようにふくらみ、シャツやワンピース、パンツになる。折り紙を思わせる造形は、斬新な前衛性と、東洋性や日本性を併せ持つ。これが新シリーズ「132 5. ISSEY MIYAKE」だ。

 「着たときの姿が想像できず、実用的でありながら『これが服なのか』という驚きも欲しかった」と三宅さんは語る。三谷純筑波大准教授が開発した、一枚から折り紙のように立体模型が設計できるソフトを活用し、生地に「尾根」「谷」の折り目を手作業でつけているのだ。

 三宅さんは近年、生地や紙といった素材を作ってきた地方の工場が疲弊し、次々に閉鎖してゆく姿を見てきた。経済効率が優先され、「時間のかかる素材開発に、経費が向けられなくなっている」とも感じていた。

 そこで2008年末、「リアリティー・ラボ」と名付けた研究開発チームを、自身のデザイン事務所内に設置。素材研究を進めるなかで出あったのが、帝人ファイバーが開発した糸だった。古着など、不要になったポリエステル製品をいったん液体にまで戻し、再生した糸だ。「英国生まれのポリエステルは、戦後の日本が進化させた」という思いもあって、新シリーズの素材に選んだ。

 松山市の工場で生まれた糸を福井市で織って生地にし、石川県白山市などで染め、東京で形にしている。

 この生地のざくっとした風合いを生かすために選ばれたのが、折り紙のような立体造形だったのだ。「着物のようにたたんで箱の中に片づける」文化の継承でもある。

■息づく長年のテーマ

 同時に、三宅さんが長年掲げている「一枚の布」というテーマも息づいている。

 多摩美術大で図案を学んだ三宅さんは、流行を追いかけるようなファッションの世界に違和感を抱くこともあったという。しかしパリで修業中の68年に、五月革命に繰り出す人々を見て、「こういう人たちの服を作りたい」と思い定めた。体にフィットしたヨーロッパの高級な服より、インドのサリーのように一枚の布を身にまとう方が普遍的な姿だと考え、さらに「生地をできるだけ捨てずに使うことを自らに課した」という。

 ポリエステルの服全体に細かいプリーツが施された「プリーツプリーズ」や、チューブ状の生地を切るだけで服になるものもある「A−POC」も、一枚の布の思想と新技術から生まれた。「132 5.」は、それに続く「第3の発明」とも呼ぶべき存在だ。

 現段階では「きちんと思いを説明したいから、たくさん作ってたくさん売るつもりはない」と考えている。11月から、東京、大阪、パリ、ニューヨークなどの6店舗だけで販売するが、生活のなかで着てもらうことを重視し、ブラウスやワンピースが2万円台からと、有名デザイナーの服としては、価格も抑えられている。「利益はあまり出なくても、『現実』をつくりたいんです」

 「132 5.」と名付けたのは、「1枚の布から生まれた3次元の立体造形は2次元に折りたたむことができ、時間の中で人々と出会い、5次元的にもなりうる」といった意味合いからだ。

 三宅さんは、07年から東京でデザインのあり方を探る展示施設「2121デザインサイト」を運営し、昨年は広島出身の自らの原爆体験をもとにオバマ米大統領に広島訪問を呼びかけた。そんな、5次元的な活動を続ける。

 今回の研究開発チームでは、折り紙のような造形を応用した照明器具も生み出したし、今後はペットボトルから再生した生地による服なども手がけるつもりだ。同時に、人材も育んでゆく。

 「自信を失った日本に希望があるとすれば、それはデザイン」。三宅さんは朝日新聞に、そんな趣旨の一文を寄せたことがある。その思いは今も、全く変わっていない。(編集委員・大西若人)

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