現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. ファッション&スタイル
  4. ビューティー
  5. 記事

カルティエ工房、時代に耳すませ新発想

2010年8月27日11時11分

写真:アトリエ・ディレクターのガルガ氏拡大アトリエ・ディレクターのガルガ氏

写真:宝石をはめ込む前に細部まで綿糸で磨く拡大宝石をはめ込む前に細部まで綿糸で磨く

写真:ヒョウのブレスレットは、ロウで型を作り、宝石を埋める穴を彫る。それだけで400時間かかるという拡大ヒョウのブレスレットは、ロウで型を作り、宝石を埋める穴を彫る。それだけで400時間かかるという

写真:新作ネックレス(c)カルティエ拡大新作ネックレス(c)カルティエ

 歴史ある老舗(しにせ)が、常に元気でいられる秘訣(ひけつ)は何なのか。時代が急変する中、伝統の一貫性と新しさをどう結びつけているのだろう。そんな疑問を胸に7月、1847年創業で今も世界のトップブランドであり続けるフランスの時計宝飾店カルティエの本社工房を訪ねてみた。(編集委員・高橋牧子)

    ◇

 カルティエの、主に注文品を作る工房は、パリ中心部の高級宝飾店が並ぶバンドーム広場近くにあった。警戒厳重な入り口を通過すると、使い込んだ木製の作業台がずらりと並ぶ。宝飾ブランドではかなり多いという約40人の細工職人が、デザイン画をもとに、数世紀も前と同じ形の金づちややすりで作業に打ち込んでいた。

 アトリエ・ディレクターのグザビエ・ガルガ氏は「ここにある道具で現代的なのは電気ランプとドリルぐらい。職人にとって大事なのは、長く継承してきた技と知識です」と話す。自らも約40年、他のいくつかの有名宝飾店で修業し、2年前にカルティエに入社した。

 ガルガ氏が最初に手掛けたのは、若い職人を他の有名店に修業に出すことだったという。「工具が変わらないからこそ、職人自身は新しい発想が必要だから」

 別の部屋では、エメラルドやサファイアなどに刻み彫りをする職人や、直径1ミリもない金属が織りなす透き間まで綿糸で磨く職人など、約20人が働いていた。時計の付いたブレスレットの、宝石の下に隠れた小さな時計のケースを作る職人は「デザイン画から、カルティエが求める、美的でしかも精密なケースを設計するのは本当に難しい」と漏らした。

 商品の中には、完成まで数千時間もかかるものが多いという。ヒョウをモチーフにしたブレスレットは、宝石の置き方だけで2週間、骨格作りに400時間、ヒョウの頭を回るように細工するなどして、さらに数百時間かかる。トゥッティ・フルッティという名のネックレスは、最低でも2500時間は必要。「いくら時間をかけた完成品でも、よりいい物ができる可能性があれば、工程を戻ってでもやり直す。その気概がカルティエの神髄です」とガルガ氏。

 デザイン面ではどうか。84年に入社し、01年からデザインを統括するイメージ・スタイル&ヘリテージ・ディレクターのピエール・レネロ氏は「ブランド固有のスタイルを忠実に守りつつ、時代に耳をすますことを常に心がけている」という。

 たとえば、9月にパリで開かれる大規模な見本市「国際アンティーク・ビエンナーレ」に出品する新作約60点は、石それぞれの個性から発想し、わき出るエネルギーや色のニュアンスをデザインに落としこんだという。渦潮のように大きく波打つダイヤモンドのネックレスや、動きのある配色のカラーサファイアの指輪。「テーマは『喜び』。なぜなら、たぶん現代人が必要としているから」と語る。

 宝飾のデザインは80〜90年代には量感のある固まりの宝石、2000年代には優しく女性らしい流麗な形が好まれた。そして今、芸術的な具象性や、より高い美的センスが求められてきたという。「私たちには、歴史ある高級品で社会に貢献するという民族的な自負があるんです」と照れながら笑った。

 ◆写真(ネックレスを除く)は大原広和氏撮影

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介