2010年11月8日10時16分
日本製ならではのこだわりのある生地、吟味した仕立て。若手のパワーが盛り上がる一方で、東京コレクションに大人も着られる服が充実し始めている。ベテラン勢はもちろん、若手や中堅がこれまでのポップさやゆるさ、ストリート感覚とはひと味違う、エレガントな「東京らしさ」を打ち出している。(竹端直樹、編集委員・高橋牧子)
和の美を服に取り込み続ける、まとふ(堀畑裕之、関口真希子)のテーマは「かさね」。様々な色の取り合わせで、早春から晩夏までの季節の移ろいを表現した。「花冷え」に「蝉時雨(せみしぐれ)」「逃げ水」……。春から夏にかけて撮影した風景の色を分解して、天然素材による伝統の染色技術を使った様々な色の再現を試みた。その結果生まれたのは「化学染料とは違う、心に響く色」とデザイナー。「でき上がった素材から形に落とし込んだ」という服のシルエットも、どれもたおやかで柔らかい。
人気ブランドのソマルタ(廣川玉枝)も、日本ならではの素材づくりからデザインを構築した。和紙を使ったプリント地など、「柔らかい素材から固い印象をつくった」と廣川はいう。顕微鏡でのぞける微小な世界「ミクロコスモグラフィア」がテーマ。ショー全体では近未来的な印象を強く打ち出したが、一つひとつの服のラインには静かな美しさが漂う。
デビュー3年目だが、素材に凝りながらもきちんと作りこんだテーラード仕立てが注目されているアグリ・サギモリ(鷺森アグリ)。今回は、屋外の人台に着せた量感のあるシャツやコートを背景に、独自の映像と共に新作を見せた。ダークな映像の向こうに、真っ白なシャツドレスが風に揺れて透ける。
メンズでも、前回初めて参加したフェノメノン(オオスミ・タケシ)が、バランスの良さと突き抜けたようなさわやかさで群を抜いた。襟を空気でふくらませたテーラードスタイルが遊び心を誘う。
来年でデビュー20周年。ミス・アシダ(芦田多恵)も、「過飾」を排したエレガンスが光った。白、黒、鮮やかなブルー、ゼブラ柄など、多彩な色柄を一気に見せる。
ケイタ・マルヤマ(丸山敬太)は、江角マキコや市川実和子ら、かつてモデルとして活躍した女優を登場させた。お得意のシノワズリ(中国趣味)や花の刺繍(ししゅう)をあしらったカーディガンなどを提案した。
ベテラン勢も、安定感があった。ユキ・トリイ(鳥居ユキ)は思い切りのよい軽やかなパリジェンヌ風、ジュン・アシダ(芦田淳)は華やかなジャケットスタイルが印象的だった。
ヒロココシノは水墨画をテーマに、白黒の幽玄世界を展開。ユキコ・ハナイ(花井幸子)は、肩の力を抜いて生きる人々「ノンシャラン派」を掲げ、ドレープを多用して着心地の良さをアピールした。
■「世界」へは課題も
国が支援する形で始まったJFW(東京発 日本ファッション・ウィーク)は、今回で11回目。その中核イベントである東京コレクション・ウィークは、東京ガールズコレクションに参加するブランドなどを一部呼び込むなど意欲的な試みもあった。しかし、まだ有力ブランドが期間内に集中せず、スポンサー企業の不足などの課題は残る。
主催の日本ファッション・ウィーク推進機構は今年7月、スポンサー探しのために米国IMGと販売代理店契約を結んだ。視察で来日したIMGシニアバイスプレジデントのピーター・レビー氏は「パリやニューヨークなどのコレクションのように、一般消費者も認知するようなイベントにしていくことが急務」と語った。
◇写真はすべて、大原広和氏撮影