2011年1月25日10時20分
2011年秋冬のコレクション発表が、メンズからスタートした。伊・フィレンツェで行われた世界有数の展示会「ピッティ・ウオモ」と、それに続くミラノ・メンズコレクションでは、伝統的な柄やアイテムをベースにした服づくりが目立った。ただし、数シーズン続くカジュアル化の流れは健在だ。(ミラノ=竹端直樹)
◆ピッティ
79回目を迎えたピッティ(1月11〜14日)。会場でまず目に付いたのは、タータンチェックを使用したコート、ジャケット、シャツの多さだ。数シーズン続く「軽さ」志向も健在だった。
伝統的手法で新しいジャケットづくりに挑戦するボリオリは、赤のタータンチェックを中心にウールとカシミヤのジャケットを多数発表した。裏地やパッドを抜いたお得意のアンコン仕立てで、ラフな着こなしを提案する。
すぐ隣にブースを構えるイザイアもタータンチェックのジャケットを前面に押し出した。ただし、ジャケットの袖にはボタンが無い。着こなすというより、羽織る感覚。日本で人気の「ジャケパンスタイル」にも活用できそうだ。
タータンチェックは昨シーズンに続く流れ。会場でも出展者、バイヤー共にチェック柄の“だて男”が多かった。
出展企業を増やし続けてきたピッティは今年、大台を超え、1010社に達した。一方、常連ブランドはブースを縮小。アイテム数を絞り、メッセージを明確に打ち出し始めた。運営するピッティのラファエロ・ナポレオーネ最高経営責任者(CEO)は、「ブランド側がソフィスティケートされてきた証拠」と語る。
新規出展では、カジュアル志向のブランドが目立った。「ALBERT ARTS」はスポーツテイストを加えたトラッド感が持ち味。「FOLK」の最新アイテムは、長いネックに穴を開け、顔まで上げれば目出し帽のようになるタートル。キッチュな遊び心が注目を集めた。
華を添えたのは、創業100周年を迎え、数シーズンぶりにランウェイショーを行ったトラサルディ。レオポルダ駅でのショーは革のオンパレードで、デザイナーのミラン・ヴクミロビッチによれば「コンセプトは“ノー・ファブリック(布地)”」。一見普通の黒いデニムパンツが実は革製という凝りよう。それでいて見事なリアルクローズに落とし込まれていた。
◆ミラノ
ピッティに続いて開かれたミラノ・メンズコレクション(1月15〜18日)では、トラッドな柄やアイテムからの「+α」を競い合うような試みが多かった。
コレクション初日、存在感を示したのがエルメネジルド・ゼニア。「イン・ザ・ムード・フォー・チャイナ」をテーマに、万里の長城をモデルが歩くバーチャル映像でスタート。大きなグレンチェックのプリンス・オブ・ウェールズ柄のロングコートやツイードのスーツと、中国を意識した赤や茶系のジャケットやシャツが、ランウェイ上で交錯した。
シチリアをテーマに、エキセントリックなテーラードの世界を構築したのがドルチェ&ガッバーナ。プリンス・オブ・ウェールズ柄や細かい千鳥格子、グレーのフランネル生地などを使ったスーツ。シャツやジャケットに合わせるボトムには、ゆったりしたカーゴパンツや、サルエルパンツのようなローライズを組み合わせた。
七三分けのヘアスタイルにダークレッドの口紅。なまめかしささえ感じさせる東西のモデルたちに、同じくローライズをはかせたのがヴィヴィアン・ウエストウッド。奇抜だが、ブリティッシュな香りを最後まで残すショーだった。
秋冬物の主役、コートでも「+α」への試みがあった。
「ウエザー・ボーイズ」をテーマに掲げたバーバリー・プローサムは、大柄のチェック柄でコートを展開。ダウン仕様でダッフルコートの幅まで広げて見せた。サルヴァトーレ・フェラガモはピーコートなどのアウターに白、赤茶、ブルー、グリーンなどの色を持ち込んだ。
メンズの「次の流れ」への模索も垣間見えた。
プラダは、先がとがって見える極細パンツにウエストを絞らないボックス型ジャケットを合わせた。ヴェルサーチも、極細のパンツにゆったりとしたラインのコートやジャケット。グッチは肩パッドがしっかり入った1970年代風のスーツを提案。流れるようなラインがランウェイに美しく映えた。
トラッドをベースに新しいシルエットや色も出始めた。決して冗舌ではなく、単なる回帰でもない。新たな方向への静かな試みが始まった。