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東北の手仕事にエール 三宅一生と縁ある工房展

2011年7月22日11時12分

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写真:プリーツ・白石ポリテックス工業 バラや波形などのプリーツの型拡大プリーツ・白石ポリテックス工業 バラや波形などのプリーツの型

写真:プリーツ機にかける前に手でねじる拡大プリーツ機にかける前に手でねじる

写真:真綿・中村工房 真綿を使った83年のパリ・コレ作品拡大真綿・中村工房 真綿を使った83年のパリ・コレ作品

写真:紙衣・白石和紙工房 和紙を使った82年の作品拡大紙衣・白石和紙工房 和紙を使った82年の作品

写真:繊維の1本ずつからゴミを除く作業拡大繊維の1本ずつからゴミを除く作業

 東日本大震災で被害を受けた東北地方には、現代の「衣」の文化を支える多くの工房があり、職人たちがいる。彼らにエールを送ろうとデザイナー三宅一生が、かかわりをもった織物業者らの手の技や物づくりの精神を紹介する特別企画「東北の底力、心と光。『衣』、三宅一生。」を26日から、東京で開く。参加工房のうち、3カ所を訪ねた。

 震災から4カ月、宮城県白石市のマンホールが何本も突き出た道を抜けた所に、白石ポリテックス工業はあった。

 地震によって工場の片側壁面は、2階分もろとも崩落。数トンの機械が20センチも動いた。3月中に一部再開したものの、設備が何とか復旧したのは7月に入ってからだ。

 イッセイミヤケの代表作の一つ、プリーツプリーズ。同社はその独自の工程を手がけてきた。布を縫製後にプリーツをかけ、何種もの特殊なひだを組み合わせるには、機械の絶え間ない改良や微妙な調整が必要になる。服にしつけ糸を通したりねじったりなどきめ細かな手仕事も欠かせない。試行錯誤を1980年代から三宅と共に重ねてきた。

 訪問した時、技術者たちは、三宅事務所のスタッフと三宅らが企画した展示の内容について議論していた。準備期間は通常の展覧会の10分の1、予算も4分の1ほど。だが気心の通じる仲。内容は次々と決まっていく。プリーツの技術者の一人は「被災者の心は複雑。言葉ではなく、物を見て共に頑張ろうと思ってもらえれば」と話した。

 同じ市内の白石和紙工房は、82年のパリ・コレクションで三宅が発表した紙衣(かみこ)を製作した。87歳の遠藤まし子さんが今も紙を漉(す)く。自ら育て収穫した原料のコウゾを、煮て洗い、打って繊維をほぐすなどの手作業は根気が要る。工房では、近所の70代の女性たちが、繊維の1本ずつを拾い、ゴミを除いていた。そうして作るからこそ紙でも丈夫で暖かく軽い衣ができる。

 遠藤さんは「一度手抜きをすると元に戻れない。昔とは設備や人の手が変わっていくので、伝統を守るのは難しいけれど」と笑う。展示では、奈良・東大寺のお水取りで着るために漉いた紙衣やその製作工程などを見せる。

 盛岡市の中村工房は、羊毛から手で糸を紡いで手織りしたホームスパンのスカーフや、真綿のベストなどイッセイミヤケのパリ・コレ作品などを展示に出す。クルミや虫など天然染料で染めた布は穏やかで優しい。「一生さんとの仕事は、グレーの色ひとつ取っても黄や赤なども微妙に入れないといけなくて、大変だった」と、代表の中村博行さん(62)。

 まだ大きな余震にたびたび襲われる中で、中村さんは決意をした。「これを機会に、誰にも媚(こび)を売らない物を作ってやる」。長い不況で、自分の物作りが易(やす)きに流れているように思えたからだ。そうして、コチニールという虫で染めた深紅のストールができた。ちょうどその時、展示への出品依頼が届いたという。 展覧会には、木の皮などを使った山形県の原始布や麻、青森県の古着を利用した裂織(さきおり)や刺し子、ゼンマイの綿毛を使った秋田のぜんまい織、福島のからむし(苧麻(ちょま))織も展示される。「身近な自然素材をもとに、衣服を大事に着続けようとする人々の意識から生まれた、力強い『用の美』を見て欲しい」と、企画担当の川上典李子さんは語る。

 苦境の中でも、人が生きていくには、心や精神を温かく照らす文化の力が必要だ。そんな意味も込めて、企画展のシンボルに、岩手県陸前高田市で津波に耐えた「奇跡の一本松」を選んだ。

 「この40年、東北の人々の力がなければ成り立たない仕事が多かった。厳しい自然の中で1本の糸、1枚の布を大切に知恵を絞り、根気強い手仕事で世界に誇る文化を生み出してきた東北の魂にエールを送りたい」と三宅は話す。

 震災で、服飾に関する多くの人々が仕事を失った。ある縫製会社の社長は、津波で工場と共に「手の技」を持った社員たちを失い、廃業を余儀なくされた苦しい胸の内を記者に語った。今回の展覧会は、そうした人々や、その技の尊さに思いをはせることにもなるはずだ。

 31日まで、六本木の2121デザインサイトで。期間中、出展者の講演や公開製作がある。入場無料。

 (編集委員・高橋牧子)

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