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東京・渋谷の街角から、最新のおしゃれ人種が生まれ、雑誌やブログがそれを追う。今年1月にも、新たなストリートスナップ誌が創刊された。コギャル、ロリータ、「裏原」など様々な流行を生んできた東京のストリートファッション。街を観察してきた2人の編集者に話を聞いた。
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さながら狩りだった。2月初めの平日夕、渋谷の街で、今年1月創刊のストリートスナップ誌「ルビー」の撮影を見た。
109ビルの前で、撮影者の藤田佳祐さん(28)が人波に目を走らせる。「あの子、いいですね」。素早く走って先回りし、正面から眺めて戻って来た。「脚細くてバランスいいけど、今日はノーメークみたい。ちょっと惜しい」
撮影したのは1時間半で1回。「獲物」を見つけるのは簡単ではない。「ファッションは着る人の作品だと考えている。完成度が高く、見て感動したら撮る。感覚的ですが」と、青木正一編集長(56)はいう。
青木さんはストリートスナップの草分け的存在だ。1985年、ロンドンやパリなどの街角で自分流の着こなしを楽しむ人を紹介する写真雑誌「ストリート」を創刊。以来、新しいスタイルを見つけるごとに雑誌を作ってきた。
97年、原宿の若い女性を撮る「フルーツ」を創刊。04年には、カジュアルな裏原系がはやる原宿で、新種族のアート系男子を見つけて「チューン」を作った。
新雑誌「ルビー」の被写体は、2010年末ごろから見るようになったという20代の女性たちだ。長く形のよい脚を大胆に露出。格好良さとセクシーさが共存し、男にこびない。
「日本では露骨なセクシーはよしとされなかった」と青木さん。コムデギャルソンに象徴される、知的でアート寄りのデザインの影響も強かった。「ルビーの子たちは自信があって自立したセクシー。日本で初めて出てきたスタイルだと思う」
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同じ渋谷の街を、マーケティングの立場から、定点観測してきた人がいる。パルコのウェブ雑誌「アクロス」編集長の高野公三子さんだ。
アクロスは80年から月1回、若者のストリートファッションを観測・分析してきた。スタジャン、布バッグといった流行品を選び、通行人に占める割合を数え、撮影し、インタビューする。そのルーツは、大正から昭和にかけて都市生活者の風俗を研究した今和次郎(こん・わじろう)の「考現学」だという。
アクロスのデータベースには、80年代にみられた黒ずくめの「カラス族」やDCブランドブーム、90年代のコギャルといった流行が足跡を残す。
「80年代はデザイナーの言いなりになって『服に着られる』時代。90年代は80年代を否定する傾向が強かった。主体は着る人に移り、『着こなす』時代が来た」
ここ数年顕著なのは、流行の変化が遅くなる「トレンド2年越し現象」だ。
「企業がCRM(顧客関係管理)をやり過ぎているから」と高野さんはみる。客のほしがる売れ筋を調査し過ぎた結果、同じ流行がグルグルと巡り、新しい物が生まれにくくなった。
「客の方も、周りから浮きたくない気持ちが先行し、ファッションは単なる衣服になってしまった」
高野さんは今、トレンドに敏感な買い物客が集う渋谷よりも、若手クリエーターが集まる高円寺に、新たなファッションの息吹を感じている。
「ファッションは人間のエモーショナルな部分をまとうもの。前と違う動きがある時、目的や変化が一人一人のディテールに現れている時、調査の楽しさを感じます」(安部美香子)